フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
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『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
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アナザーワールド5.5 

CASE1


世迷いごとです。許してください

5話と6話の間の妄想








リビングの入口に気配
「?」
読んでいた雑誌から顔を上げると彼女がこちらを覗き込んでいた。
「ひとり?」
「ん」
「アイスティー、入れたんだけど、飲む?」
「ちょーだい。」
すでに仕度してあったらしく、すぐにトレイを持って階段を下りてきた。
「はい」
俺の左肩のあたりから、邪魔にならないように気を使いながら彼女が手を伸ばす。俺も少し体を傾ける。
布製のコースターに、少し汗をかいた氷いっぱいのグラスが置かれた
「さんきゅ」
家の中に女の人がいるのもいいもんだなと、斜め後の彼女に感謝の視線を送り、さっそくひとくち。いい香り。砂糖は入っていないのにほのかに甘い。
「いろいろ、ありがと」
肩越しに彼女の声。驚いて、今度はしっかりと振り向くと、なにやら照れ笑いを浮かべていた。
「見ないでよ、恥ずかしいから。」
彼女は俺のこめかみあたりに手を伸ばし、自分に注がれる視線をさえぎるように俺の頭を軽く押し顔を横に向けると、一つグラスの残ったトレイを持って立ち去ろうとする。
「どこ行くの?」
「部屋に」
「せっかくだから、ここで飲んできなよ。恐怖時計の部屋よりましだと思うよ」
トレイごともう一杯のアイスティーを取り上げた。
右手で隣の椅子を引き、左手でトレイを持ってトレンチサービスを真似て給仕
彼女はこわごわといった態で、勧められたいすに腰掛けながら
「家でもホスト?」
「トレンチサービスはボーイの仕事」
かんぱーい、とグラスを鳴らす

「それで、なんに感謝されてたわけ?」
「や、まあ、いろいろ」
「男前だから?」
「ばかじゃないの」
「ほかに理由が見当たらない」
「…ほら、風に『お金のために母親やってる』って言われたときも、あたしの話を聞くようにって、言ってくれたり、とか…」
彼女はほっそりした指を一本一本数え折りながら話し始めた。
「俺も遺産目当てに手伝っていたからな」
なんだか気恥ずかしくて話を混ぜ返してしまう俺
「猛たちに国土さんの話を聞かせて、誤解を解いてくれたり、とか…」
「ちょうど、ハイパワーボイス(ボイスチェンジャー)、試してたし」
「ホームレスのみんなをトレジャーハンター建設現場で住み込みで雇うって、優に生放送で言うように教えてくれたって聞いたし…」
「あいつ落ち込んでたからなー、誰かさんのことで」
「カレー作って待っててくれたのも、嬉しかったし…」
「力仕事は嫌いだからねー」
「ちょっとー!人が恥ずかしいのがまんしてしゃべってるのにー」
「聞いてるほうも恥ずかしいんです。」
「…そか」
「でもさー、そんなにいい人じゃないよ、俺」
「そんなことないよ」
「合理的というか、現実的というか。持っている手札でできることをしただけでさ。けんかはしないほうがいいし、困っている人は少ないほうがいいし。そんな程度のことなんだよ」
「いい人だよ。みんな助かったんだから。」
「まーな」
「……あたしも、……って、うれしかったし。」
「なに?」
「『おかえり』って言ってくれて嬉しかったって言ったの。」
顔真っ赤にしてお礼など言われると、職業・ホストでも照れてしまう。
「ドウイタシマシテ」
照れ隠しに、グラスを持ち上げ、彼女の手の中のグラスにカチンと合わせ
「るねっさーんす」
と半笑いでいうと、彼女も吹き出した。
水滴の増えたグラスの紅茶を並んで飲む。なんか、言葉が続かない。でも、不快では、ない。
彼女も、そのまま席を立たない。
家族っぽい?
ちょっと違うか
孤児院育ちで、大蔵家に引き取られ、結婚生活も短かった俺にはわかんないけど

なんだろう。

ほっとする。


そのとき

バーンと破壊音のような大音量。
「デレついてんじゃねえぞ、バカップル!」
特攻服の猛が、ブーツでリビングのドアを蹴り開けた。

その形相は、ジェラシーというよりも、父親の怒り。
俺は悪い虫扱いで引き剥がされる。指1本触れてなかったんだけどね。
「ちびっこ、なんかされなかったか」
猛は彼女をかばうように背中に回す
「なにも」
「するわけないじゃん、この人、ママよ、俺たちの母親」
「黙れ女たらし」
「ホストは職業であって、性格じゃないんだけど」
俺が言い訳していると、目の前の猛が急に消えた
「ぐあ」
智のドロップキックが猛に炸裂
「さわんじゃねえ」
こいつも彼女のこととなると、見境ねえなあ。

「野次馬(笑)」
「うるさくて迷惑なんだよ」
騒ぎを聞きつけて優や明もやってきた。

ありえないよ、このにぎやかさ。

彼女は、母親であり、妹であり姉であり、かわいい女の子であり…。
この求心力。
親父はきっと知っていたんだろうな。

彼女がこんな風に兄弟の中に入っていけるって。