フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
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『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
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見なければすべては始まらない

繰り返すことの心地よさ
アタシんちの男子』の魅力にはまりきっているわたしが言っても、あてになるかどうかわかんないけど
ドラマを続けて見ることの楽しさをちょこっと

アタシんちの男子』、楽しいから、絶対見てみてよ!

と知人に勧めるとき、どういうセールストークで行きますか?

  • ストーリーで魅力を語る
  • キャストで魅力を語る
  • スタッフで魅力を語る

どれも正しい!と思います

わたしが一番お勧めしたいのは、連続視聴。
11話続けて見てこそのアタ男なんですよね
続けて見ることで、キャラクターを愛せるつくりになっているんです
これがなかなか薦めにくいんですよねー(←がんばれよ)
第1話の人間関係が最悪で、どんどん尻上りに関係がよくなっていくんですから、最後まで見てもらうのが、一番気持ちよく楽しめる見方なんですよね

そして、連続視聴をお勧めするもうひとつの理由。
繰り返される事象により、大きな効果を生む演出が施されているからという、非常に色気がない理由です。
でも、これにはまると、すごく気持ちが良いんです。じっくりじっくり降り積ったものが昇華するカタルシス。
それはすごく幸せな姿をして、見るものの前に現れます。
ちょっと大げさかな?

お時間ありましたら、読んでみてください



続けて見ることで、より楽しめるドラマ『アタシんちの男子』の魅力

■お約束による、共犯関係の構築

アタシんちの男子は、「振り落ち」がくっきりしているドラマでした。引っかかるガジェットや演技があると、ちゃんと回収されることがほとんどでした。(中には消化不良もあるけどね・笑)
すごく分かりやすいところで言うと

  • 兄弟の悩み⇒新造の発明品⇒回想シーンでの新造の言葉⇒兄弟の問題の解決
  • 千里の知らない契約条項⇒驚き・反発⇒取り組み⇒千里が兄弟を理解する、兄弟が千里を理解する

のように、「この振りがあると、この結果が来る」って言う定型があります
この大きな定型の中にも、いくつかの定型が含まれていました。この「定型」=「お約束」とさせてください。
ワンショット、ワンシーンの挿入にもいくつかの「お約束」がちりばめられていくことになります
たとえば、

  • (ドラマ序盤)風が出てくる⇒波乱の予感。
  • 弁護士の神出鬼没⇒物語に新たなガジェットが持ち込まれる(契約、母親10か条、ダイナマイト、かつらなど)
  • 弁護士のひそめる眉⇒憂いている事象の潜伏
  • 千里に微笑んだ後の時田の真顔⇒波乱の予感

など、ちょっと思い出しだけもいくつかあります。
ストーリー進行の伏線にならない部分でも、兄弟げんか猛VS翔、猛VS智とか、井上さんの奇行とか、時田のめがねとか、すぐに千里を口説きにかかる平次とか、劇団千里親衛隊とか、ネカフェのブリトニーのツッコミとか・・・。さまざまな「お約束」のオンパレードです。
これが「お約束」として機能するのは、ドラマを連続して見ていた人にだけ有効です
積み上げた視聴経験が、次の展開に活き活きとした効果を生むんです。「お約束」が決まる。「振り落ち」がはまる。そこに「なんかある⇒あった!」程度のことでも、自分の読みが当たる快感も加わってくれば、気持ち良いことこの上ないです
送り手の内輪だけで盛り上がる楽屋落ちとは違い、テレビの前の視聴者も巻き込んだ共犯関係に持ち込まれる、これがすごく気持ち良いんです。11話のドラマ全体を通して行われる、「天丼」*1ですね。一つのことが二つ、三つと重なるごとに、単純な2倍3倍以上の効果をもたらすから、この手法は絶大です
そして、「お約束」の共犯関係がもたらす効果として見逃せない点があります
『アタ男』はキャラクターの強いドラマでした。見た目のインパクトとともに、各々の台詞回しやしぐさからくる「お約束」で、キャラは徐々に補強されていきました。明の棒読み、智の暴力、優のオネエキャラ、翔の軽薄口調、猛の勘違い発言・・・など。
よくしゃべる&動く大蔵兄弟は、「黙る」という表現で、さまざまな感情を表現していました。
「兄弟が黙る=なんかある」ですね。傷ついた過去がむき出しになったり、兄弟の思いやりに感謝したり、ほのかな恋心を抱いたり(笑)。「お約束」があるから、イレギュラーが際立つんです。
これが特化していたのが翔ですよね。翔の目線が押さえられているときは、家族間に注目すべき感情の動きがあるんです。これも「お約束」のもたらした効果です。
反対に風は、あまりしゃべらないキャラだから、喋るとインパクトがある。風が話すことは大事なことだと耳を傾けます。これも「お約束」の効果です。千里は「おせっかい」がお約束。これが乱されちゃったから、9話はどきどきしたんですね。穏やかな翔が走る8話も以下同文
共犯関係があったからこそ、裏切りのインパクトが大きい。
これを作劇に利用して、後半戦はどきどきさせられたのでした。



■リビングで始まり、リビングで終わる

大きく捕らえると、これも「お約束」なんですけど、一番大仕掛けだから特記します

王道中の王道。
古くはシャーロック・ホームズのベーカー街221Bの一室。
多くの事件簿はここから始まり、ここで終わるってイメージ、多くの方は持っていると思うんですが、実は、すべての話でこの形をとっているわけではないんですね。でも、真っ先に頭に浮かぶ風景。ホームズと、ワトソンと、安楽椅子と、パイプの煙。この揺るがないイメージを読み手が持っているから、ホームズの物語は強いんだと思います
もちろんホームドラマの大定番。お茶の間も同じ構造です。
アタシんちの男子』も、ホームドラマなので、原則、リビングで始まり、リビングで終わります。
これは、連続ドラマでしか使えない方法です。
リビングが家族にとって安定する場所であればあるほど、大切な場所であればあるほど、この構造は強くなっていきます。強くしていくのは、信頼、愛情。
これは繰り返し見てこそ味わえる気持ちよさです。どんな波乱があっても、収まるべきところに物事が収まる。この気持ちよさは、安定感。円環している物語の強さ
これが繰り返されるごとに、わたしたちの中にもこのループがなじんできます。ドラマを見る呼吸ができてくると言っても良いかもしれません。
呼吸が整うと、リラックスします。わたしたちは、登場人物と同じように、リビングのシーンでで落ち着くようになってきます。いわゆるはまった状態です(笑)。連続ドラマの楽しみのひとつには、ドラマと自分がだんだん歩調を合わせられる気持ちよさもあるのかもしれませんね
わたしたちが、このループになじむごとに、リビングの構造は強くなっていきます。
強くしているのは、構造+愛情。見ているわたしたちの愛情も強まっているから、余計に効果的なんですね。
そして、この形が視聴者の中にきちんと納まったから、イレギュラーな終わり方をした8話のラストや10話のラストでみんなどきどきしちゃったんですよ

以前『アタシんちの男子の構造』という記事で「大ゴマカットアウト」の効果について書きました。今回の記事と、矛盾するようですが、『アタシんちの男子』は、両方の手法をとっています。
ドラマの一話毎の器は「円環構造」。ドラマ全体を串刺しにしている物語が「大ゴマカットアウト」で次回へ引っ張っていきます。
どのドラマも普通にやっていることっていえば、それまでですけどね(笑)

リビングで始まりからリビングで終わる物語のラストシーンも、もちろんリビングでした。
ループになじんだわたしたちの心は、あるべき場所に帰ってきた結末を、落ち着いて受け止めることが出来ました。それとともに、新たなループ、新たな物語のスタートを待ち望む、幸せな期待感で物語を閉じることが出来たのです。


効果がありすぎで、続編来て来て状態になってしまっているのはここでは置いときますが(笑)



■回を追うごとに増していくキャストの魅力
御託並べて最後にそれかい!と怒られるかもしれませんが、アタシんちの男子の最大の魅力は、画面からあふれんばかりの良質なパワーです
血のつながらない他人が、かけがえのない家族になっていくという物語の中の絆だけでなく、実際のキャスト、スタッフの結びつきが、回を追うごとに強まっていく様子が、リアルに画面からあふれてきて、すごく幸せな気持ちになれます
良いドラマを作りたいという意思。
お互いを生かしあいたいという意志。
自分の仕事に徹するという意思。
楽しく最後まで走り抜けたいという意思。
言葉にすると陳腐なんですけど、心が洗われるような清々しい温かさが心に残ります。
これを、わたしよりも歳若い俳優さんたちが演じているんだと思うと、本当にすごい。
若いキャストを本気で支える大人たちの存在も本当にすごい。
個人的に続編を見たいという思いもありますし、アタシんちの男子が評価されてほしいって思いも、もちろんあるんですが、一番には、あのパワーをまず体験してほしいなあって気持ちが強いんです
そうすると、再放送や、SP希望ってことになっちゃうんですよね


わたしに、伝える言葉と力があったらなあ


このパワーに出逢うためにも、ぜひとも一度、通してドラマを見てください
通して見たら、一見、隙だらけなドラマなのに、どうしてこんなに人をつかんで離さないのかが、少し、分かってもらえると思います
一回見て、気に入ってもらえたら、もう一回見てください。
もっともっといろんなところが見えてきて、愛せるようになっていると思いますよ

あんまり見すぎて、あらが見えちゃったらどうしよう・・・
でも、そこまではまってくれるなら、こんなに幸せなことはありません





感情的になって、セールストーク、しっぱーい(笑)!
修行して、出直します


追伸:マンガで語ると宣言して『アタ男』の話をすることが多いのですが、わたしの使う「振り落ち」「天丼」は、お笑いの用語だと指摘されました。普通の言葉だと思ってました。ごめんなさい(アキノ@落語好き)
『アタ男』のパッケージはコメディだから、出ちゃったのかな?

*1:お笑いの業界用語としての天丼とは、コントなどにおいて同じことを2度またはそれ以上繰り返すことで滑稽な効果をもたらすことを天丼と言います。 天丼に海老が2本のっていることが元になっているとか。