フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
「はじめに」「まとめ」のカテゴリーからどうぞ
『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
「目次」のカテゴリーからどうぞ

アタシんちの男子のその後を考えよう

脱線気味ですが、これも入れときたい
智と優の話です

誤字脱字、加筆訂正あります
いつも中途半端ですみません



リビング


今日は家庭訪問の日

智に、3時には帰ってきてくれって言われた千里
義男さんにお願いして、今日は早上がり
お茶の支度を済ませて、ダイニングの椅子にかけて、吉田先生が来るのを待っている
智は、テーブルに腕を突っ張って、椅子の後脚でバランスとってゆらゆらしながら退屈そうに座っている


畑、よく続いてるな
うん。体使う仕事、合ってるみたい
暑いだろ
まーね。智もネカフェ、続いてるじゃん
まーな
一緒の頃、始めたんだもんね
おぉ


あいつに、あれから会った?
誰?
あいつだよ
ああ、太郎さん
首を振る千里
今週末まで、こっちにいるはずだけど、田辺家では顔を合わせていないよ
義男さんに、「太郎さん来てる?」って聞いたら、「昨日寄った」って言ってた
ふーん。
なんか、今回の仕入れで全国飛び回った各地の名産品を、どーんと義男さんちに置いてったらしいよ
義男さん、お料理好きだから、喜んでた、と千里が笑う
そーか
義男さんちの軽トラックを借りて、重宝させてもらったお礼だって
ふーん、俺とかわんねーくらい童顔でも、社長ともなれば、やっぱしっかりしてんだな
千里、智の言葉に、あはは、と楽しそうに笑う
童顔もだけど、太郎さん、見ようによっては女の子にも見えるかわいさじゃない?あ、智も女の子みたいにかわいいけど
そんなの、うれしくねーし
不機嫌そうに唇ゆがめる智なんかお構いなしに、千里、なんだか思い出し笑いをしているみたい
なんだよ?そのにやにやは?
うん、あのね、翔が太郎さんの仕入れ手伝ってたとき、二人、カップルと間違われたって言ってた
千里、笑って語尾が震えている
はあ?
下北沢の太郎さんのお店の前で、タウン誌のカップル企画に載せる写真撮らせてくださいって声かけられたんだって
智、そのときの2人の表情を想像してふき出してしまう
おかしいよね、あたしと太郎さんも、夫婦って間違われたことあるけど、写真撮らせてはなかったよー
「よっぽどお似合いに見えたんだよねー」と、千里、おなか抱えて笑ってる
ちょっとまて!何だそれ!!
びっくりしちゃって、揺らしてた椅子のバランス取り損ね、ひっくり返りそうになるのをあわてて立て直す智。がたがたと椅子を鳴らしてしまう
え?
智の剣幕がちっともピンと来ていない千里


お客様をお連れしました
井上さんがリビングのドアを開け、吉田先生を案内してきた
お邪魔します
お待ちしてましたー
千里、立ち上がってお辞儀
智も慌てて立ち上がり、ぺこり、と頭を下げる
智くん、元気だった?
はい
リビングの入り口から田中が顔を出す
こんにちは
田中くん。いらっしゃい
お、田中!
智、笑顔で右手を上げる
智くんへの手土産は、田中を連れてくのが一番だと、岡崎に教わってね
センセー…、そういうことなのかよ
田中、脱力
智、田中の表情に思わず笑ってしまう





みんなの前にはアイスティー
智はいつもの席、その右隣に千里。向川に吉田先生と田中
座が落ち着いたところを見計らって、最初に、吉田先生が改まった様子で話し始める


私の、不用意な提案のせいで、智くんには迷惑をかけてしまって、申し訳ありませんでした
吉田先生、深く頭を下げる
吉田先生の行動に驚き、千里と智、思わず席を立ち上がって慌てる
先生、先生
ちょっと、何やってんだよ。先生が頭下げること、なんもないぞ
でも、外出勧めたせいでネットカフェで…
先生のせいなんて思ってませんよ。むしろ、バイト先決めたのあたしなわけだし、責任ならあたし…
千里と吉田先生、2人で自分のせいだといい合い
2人とも、何言ってんの?あんなん事故だろ?2人とも、気にすんなって
過保護にされるのが恥ずかしい智、への字口で頭を掻く。
な、先生、だから言ったんだよ。大蔵くんちの家族が、文句言うために、家まで先生呼びつけたりしないって
今のやり取り見ていた田中が笑う
うん、千里さんは文句があれば、間違いなく乗り込んでいくよな
田中の言葉に智も頷く
智ー、それ、どーいう意味ー!?
千里、唇尖らせて不満顔
では、今日は、その件で、こちらに来るようFAXいただいたんでは、ないんですか?
申し訳なさそうにうつむいていた吉田先生、上目遣いで千里を見る
は?あたし、送ってませんけど?
千里、わけがわからないといった表情
え、そうなんですか?
吉田先生も困惑


あ、それ、俺、俺
智、挙手
え、何?家庭訪問じゃないの?
千里、首を傾げる
うん、俺がうちに来てって頼んだの
え?
てっきり普通の家庭訪問だと思っていた千里、びっくり
智、ちょっと背筋を伸ばす
先生
ん?
夏休み、終わったら、バイトしたら、だめなんだよな
まー、先生として言えば、夏休み中でもだめだけど、吉田のおばちゃんとして言えばー、…うーん
あー、いいよ。悩まなくて。…あのさー
ちょっと言いよどむ智
なにかな
吉田先生、テーブルの上で指を組んで智の言葉を穏やかな笑顔で待っている
おれさー、この夏、ネカフェと図書館、行ってみてさ、
うん
なんか、結構、なんとか、続いたんだよね。…思ったより平気というか…、慣れたというか…
あまり自分の思っていることを表現し慣れていない智、短い言葉をつなぐようにして話す
言葉が通じているか、心配になって目を上げると
うん
と吉田先生が頷く
千里と田中は、視線を上に上げながら、考えがちに話す智を見守っている
ネカフェ、たぶん店長の国土さんに頼めば、親戚の子に急に手伝ってもらってる、とか、行ってくれると思うんだけど、
智、うーんと首を傾げる
でも、行くべきところは、違うだろって、思うんだ
吉田先生、少し驚いた顔で頷く
千里も、意外そうな顔で智を見つめている
…いつも、先生に届けてもらってる、課題。…あれを、今度・・・
智、言いよどむ言葉を引っ張り出そうと苦労してるみたいに首筋を掻く
吉田先生、じっと待っている
今度、俺が、学校に持ちに行ってみようと思うんだ

千里、驚く。吉田先生も頷くタイミングが、一拍遅れる。田中も細い目を、見開いている
無理、かな?そういう感じで、学校…行くの
智、心配そうに、吉田先生の表情をうかがう
吉田先生、笑顔で大きく首を振る
それが、智くんの、きっかけになるなら、先生、応援するよ。
智、頷く。表情は、笑顔でもないし、不安そうでもない。恥ずかしそうな表情を、無理やり隠しているので、ちょっとすねてるようにも見える
大丈夫?
智の顔を見て、笑う吉田先生


吉田先生の笑顔には、心配してるって言うより、「できんのか?」と子どもをけしかけているような明るいいたずらっぽさが浮かんでいる
これなら、明るく返事ができる。吉田先生ってすごいな、と千里は思う


とりあえず、先生のところに、通ってみる
智、あごだけ動かして、こく、と頷く
わかった。待ってる

千里、智の腕を掴んで、ちょっと揺する
智、照れくさくって、ちょっと首をひねる
・・・なんかさ
千里のほうは見ないで話す
うん
こないだのおっさんよりひどい人って、それほどいないんじゃないかって、思ってさ
そう
千里、うれしそうに笑う
大蔵くん
田中が智に声をかける
ん?
俺も、そう思うよ。世の中のバカな大人に比べれば、バカな子供のほうがなんぼかましかもって
かもな
あ、ごめん、先生、大人だった
田中、吉田先生を見て苦笑い
その謝り方だと、まるで先生がバカな大人みたい聞こえるよ
吉田先生、マシュマロみたいな手で田中の背中を叩く
ごめんなさい、そういう意味では
慌てる田中を見て、笑う智と千里、吉田先生
学校、そう悪いとこじゃないよって言いたかったんだ。
そのくらい、わかってるって
智、からかうような笑顔
来る日、言って。俺、顔出すから。学校、案内する
おぉ
じゃあ、先生から、いっこ、提案
はい
智、かしこまって、座りなおす
調子よければ、後期から、クラスに行ってみない?
え?
うちの学校は、二学期制なんで、夏休み明けの今から前期試験があって、一週間ほどの休みを挟んで後期が始まるんだよ。そのタイミング、考えてみない?
・・・
智少し、考え込むようにうつむいて、親指で唇に触れる
智を心配そうに見ている千里
ま、固く考えないで、そのときの感じでいいんだよ。あんまり、気にしないでいいから
吉田先生、智の負担にならないように、軽い調子で空気をほぐす
智、田中を見て呟く
…少なくとも、そのクラス、お前とミヤザキアオイはいるんだろ?
ああ
田中の返事に、吉田先生、首を傾げる
何だ?ミヤザキアオイって
大蔵くんが呼んでる、岡崎のあだ名
へえ、あだ名のほうがランク高いってめずらしいね
少しは岡崎に見習って欲しいんだって
それは難しいかも
でしょ?
田中と吉田先生のやり取りに、智、笑ってしまう
智の笑顔を見て、吉田先生、ニコニコ


外出とか、学校とかも大事だけど、智に友達ができたことがよかったと、千里は思う
吉田先生に、感謝しないとね
おおらかに微笑んでいるように見えながら、ちゃんと智に考える問題を出していく、吉田先生ってすごいな、と千里は先生のまあるい顔を見つめる


吉田先生は、智の学校でのお母さんだね


千里が思わず呟いた言葉を、三人が聞きつける
え〜!?
恥ずかしそうに顔をゆがめる智
ぶっとふきだし、笑い出す田中
お姉さん、私まだ、30歳なんですけど…
吉田先生、苦笑い。丸まっこい手でこめかみを掻く
まあ、引き受けますよ、学校のおっかさん
ポンと胸を叩くしぐさは、まさしく肝っ玉母さん
智をよろしくお願いします
と、千里、頭を下げる
そういう言い方、やめろよ
例のごとく、千里の母親口調が気に入らない智。おかんむり
千里と智のいつものやり取りに、笑いをかみ殺す田中


大蔵くん、ミヤザキアオイに会いに行く?
田中が、笑いすぎてずれたメガネを直しながら、智に提案
いーよ、わざわざ
智、手を振って拒否
いるんだよ、表に。
吉田先生が玄関のドアを指差す
え?
入ってくればいいのに
千里、驚く
岡崎、大蔵家、出入り禁止ですから
と、田中がにっこり
あ!
千里、思い出す。
智、くすくす笑っている
葵ちゃん、智との約束、守っているんだね
千里、葵の顔を思い浮かべ、突拍子もなく、遠慮もないけど、変なところで律儀なんだからと、笑顔





トリックハート城の玄関の石段に座っている葵


背後で玄関のドアが開く音がして、からかいモードの智の声
おーい、また階段に座ってんのかよ。階段好きだなー、お前はー
ネカフェの事件を揶揄してからかう
何よ
と振り向かないで膨れる葵

智、葵の真後ろに立って、葵の頭を見下ろす
俺、学校行く練習することにしたから
え、ほんとに?
真上にある、さとるの顔を見上げる葵
いけるかどうかわかんないけど
びっくり顔の葵と目が合って、智、そっぽを向く
葵、智と一緒に出てきた田中と吉田先生に確認の視線を走らせる
吉田先生、うんうんと頷く
田中も笑っている
葵ちゃん、よろしくね
千里が葵に笑いかける
じゃあ、学校でもさっとんに会えるかもしれないんだ
うれしそうに智を振り返る葵
そうなるといーけどな
智、くしゃくしゃと頭をかく
あ、でも、さっとん学校にきたら人気出ちゃうな。どうしよう・・・
葵、腕組みして眉間に皺
何言ってんだ?
首をかしげる智
いや、こっちのこと
ふうん。…まあ、いいけど
智、首を傾げる
パーカーのポケットに手を入れて、葵の正面に回ると、
いちおー、お前のおかげってところも、あるから
ぶっきらぼうにそう呟く智、葵の前に右手を伸ばす

不思議そうな表情の葵
智、ぱちんと指をひとつ鳴らす
わ!
智の指先には一輪の白いバラの花
ほら
花の茎を持って、葵の頭を一回叩く
感謝のしるし。造花なのは、カンベンしてくれ
智、座っている葵の目の前に、荒っぽくバラを差し出す
葵、おそろおそるバラを手に取り、じっと見る
さっとん…
男子に花など貰ったことのない葵、感動している
これって、これって、さっとんあたしのこと、特別な・・・、うわ、やだ、恥ずかしい、みんながいる前で
葵が、にぎやかにはにかみながら顔を上げると
さんきゅー!
おみごと!
田中と吉田先生の手元にも葵と同じ白いバラ
智の隣で千里がパチパチ拍手
舞い上がっていただけに、葵、ショック
葵、立ち上がって吉田先生と田中のそばに行き
あたしだけ特別なのかと思ったのにー
ちえーと唇尖らせる葵を見て、智、楽しそうに笑う
すごいな、大蔵くん
種があるとわかってても、目の前で見ると感動するね
さっとんのマジックだからだよ
三人で智が渡した花を見つめてニコニコ笑っている
三人の笑顔を見て、満足そうに微笑む智


智と吉田先生たちを見て、千里「一瞬でその場の空気を変えるマジックってすごいな」と思う
智と家族になって、身近にマジックを見るようになったけど、
マジックのすごいところは、仕掛けだけじゃなくて、見てる人の表情とか気持ちが、パッと変化するとこなんじゃないかな
智がマジックで出した花で、みんな、華やいだ笑顔になっている
智が魔法をかけたみたい


それじゃあ、いこうか
吉田先生が辞去の挨拶
智くんの意向を、学校に伝えておくから
はい
通学形態や細かいことは、また話し合いましょう
よろしくお願いします
千里、先生に頭を下げる
遅れて智も
じゃーな、大蔵くん
さっとん、バイバイ
おお。
気をつけてね
田中と葵に手を振る二人




白い花を大事そうに持った三人の姿が、広い城内を出て行くところまで見送る智
人が喜ぶのって、気分いいもんだな
と呟く
そうだね
千里も相槌
おっきい舞台のマジックもいいけど、一人ひとりに見せるのも、楽しいかもしれない
智の言葉に、千里、うれしそうに笑う
千里の顔を見て、ちょっと照れる智
あ、そーだ
と、わざとらしく思いついた振り
智、千里の前に右手を伸ばし、ぱちんと指をひとつ鳴らす
智の指先には一輪の赤いバラの花
千里…さんにも、すごく、感謝、してるから
うわ…
と、+αの気持ちも…こめて
どきどきしながらバラを差し出す智
受け取る千里
ありがとう
千里、笑顔
想像以上にうれしいもんだね
手の中の花を見つめる千里
マジックで使う造花でごめん
智が恥ずかしそうにくしゃくしゃと頭をかく。かきすぎてヘルメットボブが乱れてる
ずっと枯れないでとっておけるから、このほうがいいよ
千里、手の中の花を智にかかげて見せる
すごいね智。魔法使いみたい
千里に真っ直ぐ笑いかけられ、智、ますます照れてしまう
そういえば、+αってなに?
首を傾げる千里に、智、がっかり
…それは自分で考えろ
照れ隠しに唇ひん曲げて、城の中にずんずん歩いて行く智
お花、ありがとー!
千里、智の背中に声をかける


玄関入ろうとした千里、バイクの音に気づく
ふりかえると
郵便でーす
郵便配達のバイクが千里のそばで止まる
ごくろうさまです
郵便物の束を受け取る千里

玄関先で郵便物をチェックする千里
請求書、DM、カタログ、カード明細、…あ!


七海ちゃんからの絵葉書

大蔵家のみなさんへ
先日はお世話になりました。
今年の夏は、忘れられない夏になりました
みなさんにお会いできて、本当に良かったです
絵葉書の写真は、お兄ちゃんとあたしが生まれ育った家の、すぐそばの海です
来年は、大蔵家のみなさんで、ぜひ、私のうちに遊びに来てください
皆さんに、また会える日を、楽しみにしています

岸田七海


ただいま
はがきを呼んでいた千里のすぐそばで明の声。
千里が顔を上げると、メッセンジャーバッグを肩にかけた塾帰りの明
明、お帰り
挨拶代わりに明の肩をポンとたたく千里
七海ちゃんから、はがきが来たよ
ほんと?
明、七海のはがきを受け取る




リビングに、はがきを見ながらニコニコ入ってくる2人
何、ニヤニヤしてんだ?
怪訝な表情の智
七海ちゃんから、葉書が来たんだ
千里、きれいな海の写真を智に見せる
へー、みせてみせて
智も寄ってくる
七海ちゃんの家のそばなんだって
先にはがきを読んだ明が解説
うわ、字もきれい


千里、バーカウンターのところにあった銀の一輪挿しに造花のバラをさし、デスクに飾る
なにそれ
明が気づく
智に貰ったの
へー、赤いバラを
明、智の顔を見る
なんだよ
智、キョドる
べつに。僕にでもわかることがわからない人が、いるんだね
うるせー
明の言葉に、顔をゆがめる智
千里、手に持った花が持つ、甘い意味には、一向に思い至らない




ただいま
リビングに上機嫌の優画は言ってくる
例のごとく、事務所の封筒を手に携えている
お帰り
千里、智、明の声
千里さん、これ
にこっと笑って封筒を差し出す優
よくやるよ、と言う目で見ている智と明
あ、いつもありがとう。また後で見るね
封筒を受け取った千里、そのままデスクに置く
千里、優が、自分自身の目の前で写真を見られるのとを嫌がることを知っているから
すると優
今日のは、今、見て平気。すごくいい写真だから
え?
めずらしいな、いつも嫌がるのに
優の反応に、智と明もデスクのそばに駆け寄る
うん
優、照れ笑い
千里、封筒に手を入れ
あれ?
と首を傾げる
今日のは、雑誌じゃないんだ
千里が封筒から出したのは、四つ切サイズのモノクロ写真


ウインドウに顔を寄せて、中を覗いてる優と七海
前を歩く七海を後ろで微笑んでみている優
塀の上の猫を見上げている二人


一見、恋人同士のように見え、よく見ると小さな兄妹が並んで遊んでいるような写真
心の通じている2人の関係が幾重にも見える、アート系の写真というよりも、極々個人的な表情の写真


うわ、いいね、これ
千里、思わず呟く
智も「うん」と頷く
佳織さんが撮ってくれたの。個展用だって
優、照れ笑い
そうなんだ
明、笑顔で写真を見ている
プリントしたら、出来がいいからって、早速、事務所に届けてくれたんだ
優の顔が、お兄ちゃんっぽいかも
僕、こんな顔して七海を見てるんだね
うーん、でもこれは、兄妹2人のときの顔なのかもね
写真をじっくり見直す千里
あたし、今までの中で、これが一番好き
おれも
ぼくも
智も、明も頷く
この写真撮ったの、七海がおばあちゃんの話をしてくれた、次の日なんだ
優、恥ずかしそうに笑う
そうなの
その日の雑誌の撮影もすごくうまく行って
写真を手に取り、笑う優
よかったね
うれしそうな優に千里も笑顔


前さ、千里さん、僕に「自信を持ちなよ」って、話してくれたの覚えてる?
うん。
あの言葉がね、だんだん自分の中に落ち着いてきたみたい
優、ちょっと芝居がかったしぐさで自分の胸を押さえる
落ち着くって?
千里、首を傾げる
僕、写真撮られるの、大好きだから、いつもお肌つるつる!体も完璧!にして、仕事に臨んでんだけど
優の説明は、顔を撫でたり、力こぶ作ったり、ゼスチャーつきでコミカルに喋る。
智と明、ちょっと引き気味。千里も苦笑い
優、今度は自分のシャツの左胸にそっと手を当てる
おんなじように、気持ちって言うか、心も、充電満タンになっているほうが、いい仕事ができるんだって、だんだんわかってきた
優の言葉の調子が変わったので、顔を見合わせる千里、智、明。優の話に耳を傾ける


iPodも携帯電話も、フル充電にしとくと、安心じゃない?寄り道しても、思いがけず遠出しても大丈夫って言うか
「うん」と頷く三人
そんな風に、気持ちもフル充電になってると、現場でのちょっと無理目の要求にも、やってみようって思えたり、予想以上の出来だったりするんだ
自信って、こういうものなのかもって、思った。
負ける気がしないっていう、自信過剰じゃなくて、受け入れる余裕ができるって言うのかな
優、「うまく言えてる?」と一度千里を見る
千里、頷いて、優の話を理解してるよって、視線で応える
安心して話を続ける優


七海の話は懐かしくて、すごくうれしくて、心が満たされた感じがした。
でも、次の日、目が腫れるほど泣かされちゃった
翌日の撮影、お肌のコンディション最悪の日なのに、
カメラマンさんも、自分も、雑誌の人も、事務所の人も、千里さんたちも、
みんなが好きだって行ってくれる写真が撮れたって、不思議だなーと思うけど、そういうことだとおもうんだ
優、自分の仕事の話をするのがちょっと恥ずかしそう


優が、自分で、俺たちに写真見せたってのが、「そういうこと」なんじゃねーの?
智が優を見て、ちょっと照れくさそうにいう。
優、智の言葉がうれしい。
みんなに、にっと笑顔をみせ
だから、僕、いっぱい泣いたり笑ったり、感動したりしようと思うんだ
僕、この仕事でお金貰ってるんだもん。
プロとして、お肌も、体も磨きまくって、鍛えまくって、心もぴかぴかにしていい仕事、たくさんしたいなって、思ったんだ。
優の宣言を見つめる千里もうれしそう


これ、雑誌に載るの?
明がテーブルに並んだ写真をあらためて見る
どうかな、
と首を傾げる優
載ったら七海ちゃん、また仕事来ちゃうんじゃねぇ?
智、いたずらっ子のような表情で優をからかう
七海が魅力的なことを、みんなに自慢したい気持ちもあるけど、他の男から隠しておきたい気持ちも同じくらい強い優
眉間に皺を寄せて真剣に思案


そんな優の表情に、思わず笑い出す三人


あ、七海ちゃんから、絵葉書着てるよ
思い出して言う千里の声に、
え!!
と、猫に鰹節のように、すっ飛んでくる兄バカ優を見て、また大爆笑の智と明