アナザーワールド6.5
CASE1
申し訳ない。ご容赦ください
6話と7話の間の妄想
父さんにネットカフェに呼び出されたのは、時田さんの差し金だと知った。
すごくいやな予感がして、トリックハート城に駆け戻る
リビングには、兄弟の姿はなく、時田が一人で紅茶を飲んでいた。
時田さんは、兄弟たちは全員出て行った、とあたしに告げた。
*
時田さんが帰っていったトリックハート城は、なんか、静か過ぎて物足りない。
あ、井上さんがいるか
豪華な調度のリビングも、拾いだけで寒々しい。
自分の部屋=恐怖時計に部屋に戻る
この部屋から見つけ出したかぎで新造さんの残したみらくるん2号にたどり着いた
でもその結果、誰一人城からいなくなってしまった。
「何があったの?」
兄弟がどうしているか、心配になる。風、猛、翔、優は大人だから何とかするだろうけど、引きこもっていた智は頼る友達がいるんだろうか、いくらお金をもっていても、中学生の明は宿を取ることができるんだろうかとか、兄弟のことばかり浮かんでしまう
冷静に考えれば、みんなが出ていてしまった場合、契約は無効になるのか、一億の返済はどうなるのかとか、自分の心配だって山ほどあるって言うのに。
恐怖時計の部屋に響き渡る11点鐘の轟音
「あ〜、うるさい」
誰もいないんだったら、リビングで休もうかな。
枕と毛布を抱えて恐怖時計の部屋を出た
*
ふわふわと熟睡できないまま、夜が明けてしまった。
なにはともあれ、食事だけはとらなくちゃ、余計考えが暗くなる。
朝日の差し込むキッチンに入って、気分転換に丁寧に朝食の支度をする
ぼうっとしていたら、作りすぎてしまった。
1番最初にあいつらに食べさせようと思っていた大根のお味噌汁
「つまんないの」
たべてくれるひとがいなくちゃ
リビングのほうで蝶番が軋む音がした。
「?」
聞き間違いかなと思った
「いい匂いしてるじゃん、腹減った、なんかある?」
ひょこ、っと長身の三男が顔を出す
「翔」
続いて特攻服にリーゼントが
「ちびっこ、なんか食いもんくれ」
「猛」
狭い台所の入り口に大きな図体の男子が並んで笑っている
「早起きじゃん。」
と、翔が調理台のそばまで入ってきて私の手元をのぞきこむ
「み、味噌汁なら、ある」
「ちょうだい」
猛は自分の箸を取り出してチャカチャカそこらじゅうを叩き
「めしは?」
と意味のないキメポーズ
「炊いてあるけど」
「ご飯もちょうだい」
「まって、…ねえ、何にもおかず、したくしてないんだけど」
「俺、卵かけご飯」
「俺、マイふりかけ隠してあるから」
「超特急で頼むよ、お母さん」
翔に背中を強めに叩かれて、痛かったけれどほっとした。
*
「いっただっきまーす」
三人合唱
結局急ごしらえでほうれん草の胡麻和えと即席漬けをプラス。佃煮、梅干など常備菜を並べ食卓は完成した
「あー、つかれたー」
話よりも食事といった風情の猛と翔に「出てった、のかとおもった」ト、時田さんの言葉を思い出しながら言う
「お仕事ですよ」
「俺もバイク便復活できたからな、夜勤」
ふうん。こくこくと小さく首肯する。そんなあたしを見て、翔が、にやりと笑い
「さみしかった?」
と恥ずかしすぎることを聞く。
「静かで良かったのに〜」
い〜っと言う顔を作って見せると、ちょうど猛が玉子かけご飯を書き込み終わり、
「こいつは」
とあたしの肩をぽーんと押した。
いったいなあ、といいつつもなんだかうれしい。しかもなんだか照れる
「お茶入れてくるね。」
とごまかしながら階段を上り、キッチンに駆け込んだ
すると、リビングから
「なんかわすれていませんかー?」
って声をかけられた
「え?」
階段の上からボーっとリビングの二人を見る
「あ」
思い出した。
「おかえり」
一瞬の間があって、二人は声を合わせて大きな声で笑いながら
「ただいま!」
と、元気にさけんだ。