アタシんちの男子のその後を考えよう
後から追いかけて入れてます。
よろしかったら読んでみてください
時田との電話を終えた風
そのまま薄暗いラウンジで考え事
トリックハート城は広く、その気になればひとりになれる場所はたくさんある
この城は兄弟たちの居住だけが目的ではなく、ミラクルの迎賓館的機能も備えている
バルコニーに面している、バーカウンターを備えたこのラウンジもそのひとつ
家長騒動の時に、一億円持った国土が隠れていた場所
一通りの酒も揃っているので、ちょっと拝借することもある風
親父が亡くなってから、トリックハート城での催事は一切ないが、「まあ、酒なんか腐るもんじゃない」と、スットカーを開けてビールを一本取り出す
グラスを洗うのが面倒なので、瓶からそのまま飲むことにする
親父はヴァイツェンが好きだったから、ビールはちょっと甘め。
つまみがほしくなる味だよな
外出の練習を始めた智に事件が起こったり、太郎のがトリックハート城で親父の発明品を見たいと言ってきたり
なんだか懸案事項満載の日だったな、とため息
智の問題は、時間が解決するものなんじゃないかと思っている
傷がいえるまでの時間
人がスキャンダルを忘れるまでの時間
智が大人になるまでの時間
二十台半ばを過ぎれば、今は女の子みたいな智の容姿も男らしく変化するだろうから、少年期の面影に気づく人も少なくなるだろうし
それに、今は千里がいるしな
かっこつけたい相手がいることは、男にとっては大事なことだと思う。そのかっこつけが、滑稽に思えるときがあっても、かっこつけるってことは、なりたい自分に向かってがんばることと同じ意味だと思うし
千里のことを考えると、もうひとつの懸案事項が浮かんでくる
いや、ひとつでなくて二つかな
千里に接触した太郎の仕事上の目論見と、妹の周りをうろちょろする虫って言う単純な不快感
早く正体を現してくれよ
そしたらどんだけでも作戦立てて迎え撃ってやるからさ
あれ、めずらしく攻撃的な気分になっている
気は長いほうなんだけど、勿体つけてなかなか現れない太郎に、ちょっと痺れを切らしているのかもしれないな
気をつけよう
正体見ないうちは考えない考えない
もう一本ビールを持って部屋に帰ることにする風
部屋の前まで来て、
？
ドアノブに下げられている紙袋に気づく
あれ、
朝食の席で、風の隣に座っている優が、風の左手に、時計とあわせたレザーブレスが巻かれていることに気づいた
それ、いいね。
ファッション大臣が注目
そうだろ？
プレゼント、とご機嫌でほほえむ風
へえ〜。…あ！昨日だったね！ごめん
優、申し訳なさそうな表情でこめかみを掻く
男兄弟で誕生日もねーよ。
今迄だってそうだろ？と、笑う風
…昨日は、智のこともあったしね
優、浮かない顔になる
あいつ、出てこないのか？
うん。
優、空いている智の席を見る
智の隣の席の猛が箸で空席を示す
大丈夫だぞ。夜中、腹が減って俺の打った蕎麦、食ってたし
智のこと？
翔も話しに加わってくる
俺も、そん時、いたけど。俺と一緒に猛にへらず口たたけるくらいには元気だったぜ
そうなの、よかった
優、ほっと息をつく
黙っているけど、明の表情も安心したようにちょっと緩む
風もみんなの顔を見てうなずく
で、それ
優が思い出して追求
ん？
だれにもらったの？響子さん？
ひみつー
勿体つけてふふふ、と笑う風
なんだよー、もー
優、ふくれっつら
どうしたの？
二人の会話に明が気づく
優、明に告げ口
風がさー、誰に貰ったか、教えてくれないんだよねー
と自分の手首をとんとんと指差す
その仕草に、猛と翔も風の手首に注目
お！
どーせ響子さんか、中央線の各駅女だろー？
翔が興味なさそうに頬杖ついて言う
まだ切れてなかったのか！
ちょっと楽しげな猛
また謝罪会見開くの？
前回、受付担当した明、入場料の算盤を弾く
千里さんの身が持たないよー
優、口元に手を当てて心配顔
風、みんなの会話もお構いなしに、ニヤニヤ笑いでご満悦
いやー、こいつが、ここまでだらしなく笑っているところを見るとですねぇ…
猛探偵、人差し指を眉間に当てて古畑任三郎風に推理を展開
食後のデザート、食べて行ってねー
千里がフルーツの盛り合わせを乗せたトレイを持って、階段を下りてきた
犯人は、…あなたです！
渋くポーズを決めて千里を指差す猛
？
そうなの？
優が訊ねる
え、なに？
千里、リビングの状況がわかっていない
風さんに、誕生日プレゼント…
あ、あたし、あたしー！
千里、あっさり挙手
風、ニコニコが止まらない
昨日さー、ばたばたしててお祝いするの忘れちゃったんだよねー。あたしがこのうちに来てから、初めて誰かの誕生日だったでしょ。派手にお祝いしたかったんだけど、ごめんね
千里、両手を合わせてお詫び
いいさいいさ
うんうんとうなずく風
９月が翔で、１１月が優とあたし、１２月が明で、２月が猛、３月が智。２カ月に１回は確実にホールでケーキが買えると思うとうれしくて
千里さん、ちょっと喜び方が違うんじゃ
明が冷静につっこむ
えー、そうかなー。誕生日の醍醐味じゃん？
風に千里からプレゼントと聞いて、一瞬、嫉妬のスイッチが入りかかった翔と優も、順番にお祝いしてもらえるらしいとわかり、戦闘意欲も消えてしまった。
風だけが相変わらずの上機嫌。改めて千里にお礼を言っている。
なんか、温度差あるよね
明が、風と千里の観察結果を平板口調で報告
二人の表情の温度差。普通に贈り物をした千里のニコニコ笑顔と、贈り物に感激しきっているデレデレ顔の風
兄バカだな
笑っちゃう翔
ちょっと、僕には切ないものがある・・・
妹を持つ兄同士として、ちょっと風が不憫な優
猛、「だらしねーなー」と呆れ顔で風を見る
あーいうのを、『猫にマタタビ、お女郎に小判』って言うんだろ？
翔、優、明、ぽかんとする
・・・んだよ？
常にない兄弟の反応に、ひるむ猛
いや、めずらしく、日本語が合ってたから
今日ばっかりは、風の調子は狂いっぱなし
社長室で社長服を羽織り、まじめな顔で書類をチェックしているものの
社長…
時田がめがねを直しながら、ため息
ん？
風が時田の大げさなため息に顔を上げる
いくらかわいい妹さんから、初めてもらった贈り物とはいえ
「へへー」と笑って、自慢げに袖をたくし上げる風
時田、頭痛がするといった風にこめかみに指を当て、
重役会議の時には、それ、外してくださいね
えー。いいじゃん、大目に見てよ
見られません。
メガネを光らせる秘書に、「ちぇ」と不満げに口を尖らせるミラクル社長
風くんをここまで豹変させられる女性が、幸か不幸か実の妹
いや、明らかに「幸」ですね。
よその女性にここまでペース狂わされてたら、会社が傾いてしまうかもしれません
秘書時田、安心半分、不安半分の表情で滅多に見ることのない社長の表情を、しばし観察
