フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
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アタシんちの男子の針を進めたら…

操行不能はまだまだ続く(笑)

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■新造との暮らし



ちょっとごめん
響子の話を黙って聞いていた風、車を路肩に寄せると、ハンドルに額を乗せて、ひとつ息をつく
ごめんなさい
響子が心配そうに風の肩に触れる
いや、そうじゃないよ。
え?
響子の手に、風の体の振動が伝わってくる

泣いているのではないかと眉をひそめる響子だったが、徐々に大きくなる振動の正体に気づく
顔を上げた風は笑っていた
風くん…
その笑顔に傷ついている表情が隠れていないか、淋しい思いを隠していないか、慎重に探る響子
その響子の表情に気づいた風、「大丈夫だよ」と、響子にひとつうなずいてみせる
親子って、変なところが似ているもんだと思ってさ
心配そうな響子の頬を和らげるように、指の背でそっと触れる
自分の表情が固まってたことに気づいた響子、自分の頬に触れ、照れ笑いで俯く
あの人らしいかも、と思ったんだよ
と、風、また笑ってしまう


響子にいうのはためらわれるが、風は、自分の母親の手管が、自分とそっくりなことに呆れて、笑い出してしまったのだ
でも、
誰かが悲しむくらいなら、自分が悪者になってしまったほうがずっと楽だという考え方
シニカルというか、へそ曲がりというか
「確かに俺の母親らしいかも知れない」と風には思えた
しかしさ、それを自分の息子にまでやらなくてもいいんじゃないか?
風の脳裏に、もう何年も顔を合わせていない母親の面影が浮かぶ


15歳の誕生日、母親がいきなり俺に言ったんだ
風が明るく話し始める
響子はシートに寄りかかった体を、運転席の風に向ける

あんたは父親のところに行くのよ

親父のことは、それまで、生きているのか死んでいるのか、円満に分かれたのか、喧嘩別れしたのかすらも聞いたことがなかった
でも、まー、あっさり話されたよ

あたしと暮らした子供の時間は終わったの
今度は男にならなくちゃね
あんたの親父は、変人で不器用
だけど、何かに打ち込んだり、愛したりすることにかけては誰にも負けないくらい一途な男よ
あんたが親父を、好きになったら、追えばいいし、嫌いだったら、追い越したらいい

「言ってるお前のほうが、よっぽど変人だろ」って言い返したけどね
母親の軽口には慣れてたけど、俺を親父の元に送り出すときもそんなだったよ


俺、親父のところに引き取られたとき、何の期待もしていなかった
むしろ、期待しないように、自分に言い聞かせていた
実の親父ったって、15年会いに来なかったってことは、親父の気持ちは推して知るべしだろうって
でも、正直、ほんのちょっとだけ、うれしかったんだ
母親から、親父の話を聞いたことはなかったし、母親の恋人は何人もいたけど、父親って呼べる奴はいなかったからね
まだ見ぬ親父という存在に、ほんのちょっとだけだけど、憧れみたいなものを抱いて大蔵家に来てみたら、いきなりのスパルタ教育
風、おおげさに目を見開いて、驚いた表情を作る
確かに母親の言うとおり、変人だったよ、大蔵新造は
ちょうど、トリックハート城の移築が始まった頃だったと思う
親父は会社の近くのマンションを持っていて、そこで仮住まいをしていた


母親と暮らしている時も、俺は昼間学校に行っているし、夜は母親が仕事に行くから、一緒にいることはなかったけど、社長として多忙な日々を送る親父と暮しても、それは同じことだった
でも、大蔵家に来てから、寂しいと思うことはなかったな
実の親子の対面って、こんなものなのかって、ちょっと肩透かし食らった感じはあったけど、俺も、もう15歳だったしね
ふつうの父親がどんなものか知らなかったってこともあるし、今までも一人の時間を過ごしてきたってこともある
でも、寂しいと思う間もなかった一番の理由は、やたら厳しい後継者育成プログラムのおかげだったかもな
その日のノルマを終えたら、親父の書斎のデスクにその日の課題を置いておくんだ
そうすると、どんな夜中に帰ってきても、親父は必ずそれに目を通して、一言コメントを書き残し、翌日の課題をデスクにおいておく
学校の勉強以外にやらなきゃならないのは大変だったけどさ
資格をモノにすると、親父はなんでか、必ず俺と飯を食ったね
決算期だろうが、イベント中だろうが、それだけは譲らなくて、秘書をやきもきさせていたよ
だから俺は、親父と一緒に暮した5年間に、俺が持っている資格の数と同じ、50回以上は、親父とそんなふうに食事をしたってことだね
男2人だから、何を話す出なく、もくもくと食べるだけなんだけど、ご褒美のつもりか、必ず、自分の飲んでるビールを一杯だけ注いでよこしたな

やるじゃないか

って、めったに笑わない親父が少しだけうれしそうな顔をするんだ
でも、腹が立つことに、それ以上は絶対褒めない
俺も意地になって、涼しい顔して課題を必死にこなしたよ
風、その当時を思い出したのか、苦虫噛み潰したような表情
新造のいたずら好きを知っている響子、風の顔を楽しそうに覗き込む
新造氏にとって、あなたとの食事は、大切なイベントだったんじゃないですか?
どうかな?昭和の親父みたいなものに憧れでもあったのかな
風、首をひねる
まぁ、でも、とにかく飯を大事にする人だったよ。
二日酔いでうなってても、俺が朝飯食うのを見届けるんだ
テレビつけて飯を食うのも、嫌がった
私が子供の頃見ていたドラマの頑固親父みたいですね
響子、くすくすと笑う


そんな感じで親父との生活は何事もなく続いていたんだけど、高校を出て、大学に入ってしばらくしたとき、
俺、バイトした金をためて、夏休みに海外旅行をしようと計画を立てたんだよね
二十歳になってたから、自分でパスポート申請のの書類をそろえた
で、見ちゃったんだよね。戸籍謄本


風の言葉に響子の目元が曇る
対照的に、風の表情は明るい


その足で、親父の会社に行ったよ
そしたら、

戸籍がどうであれ、お前が私の大切な息子である事実に代わりはない

って言った
そこから後の話は良く憶えてない
「お前を守るため」みたいなことを何度か聞いた気がしたけど、そのときの俺には理解できなかった
裏切られたって思ったよ
「大切な息子なんてうそじゃん」
「何で俺をそんな中途半端な状態にしとくんだよ」
「おふくろに押し付けられていやいや俺を引き取ったんじゃないのか」
そんな言葉が喉まで出掛かって、俺は唖然としたね
何にも期待してなかったと思ってた親父に、知らないうちにずいぶん依存してたんだって
俺はその足で家を出た
幸いにして、旅行のためにためた金もあったしね
大学を辞めて、バイトで食いつなぐことにしたんだけど、腹が立つことに、親父が俺に持たせた資格が、ことごとく役に立つんだよね
それでまた頭にきて、バイトやめて、親父の影を一番見ないですむ方法を探した
それで、露天商だったんですか

最初はさ、絵を売ろうなんて考えてなかったんだよ
子供の頃から留守番ばっかだったから、よく絵を書いてたんだよね
画を描くときって、頭で考えて、手に伝わって、線を描くでしょ
描きたいことがたくさんあると、だんだん頭に手が追いつかなくなって、楽しくなってくるんだ
ランナーズハイみたいな感じ
そのこと、ちょっと思いだして、気晴らしになるかもって、ぶらっとクロッキー会に行った
5分ポーズとか、3分ポーズとかで、慌ただしくモデルのクロッキーしてたら、余計な考え事を忘れて線を引くことだけに集中できたんだ
で、癖になって、何度もいろんなクロッキー会に通ううちに、小遣い稼ぎしよーぜって常連に声をかけられた
そいつのポリシーは、
「売り絵にセンスはいらねぇ。客が見たいものを描いてやりゃあいいんだ」
って奴だった
ならばってことで、俺は相手を観察して、相手が喜ぶ顔を描いた
目に気合が入った化粧をしてる女の子には、目力強い表情に
スタイル気にしてる女の子には、彼女の望むように
そんなふうに、公園で絵を描き始めたら、いつの間にか行列ができた
まあ、絵が目的な奴はほとんどいなかったけどね


ある日、その行列にミラクルの重役がいた
ミラクルのために戻ってきてほしいって頭を下げられた
俺は、そーゆーの、興味ありませんからって、お引き取り願った
風が小さく笑う
響子、風の言葉に当時の記憶が蘇る
同じ頃だと思います
会社でも、同じような動きがありました
あなたの優秀さを惜しむ役員や、せっかく金をかけて教育したのに大損失だと、社長に詰め寄る重役もいました
私は、腹が立ちましたね
あなたがたが、風くんを引き取るときに、些細なことにこだわったから、新造氏は、風くんを守るために、養子扱いにしたのに、この人たちは、今更なにを言い出すんだろうと


響子、いたわるような視線で風を見つめる
お母様の意向と、その思いを受け入れたいという新造氏の意向。
でも、そのことが、あなたを傷つけてしまったんですよね

そんなんでも、俺の家族なんだからさ
風、静かに笑う
俺、そんなに嫌いじゃないよ、俺の両親も、生い立ちも。もちろん、いまだから言えることだけどね


わたしはやはり、子供の頃に寂しい思いをしたあなたには、温かい普通の家庭を持っていただきたいと思います
また、その話、するの?
いけませんか?
普通って何?全部揃っていることが幸せだっていうの?
あっさりした口調だけど、以前の風のようなかたくなさが潜んでいるように感じる響子


風、いらだたしげに車を発進させる


それが、俺の幸せなわけ?


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