アタシんちの男子のその後を考えよう
ネカフェの事件、再び・その２
続きです
３は日付が変わる頃、上げます
誤字脱字、加筆修正あります
田中と葵がいるのは、仕切りのないオープンエリア。席から、智のいるカウンターがよく見える
ネカフェに来たのに、ろくにネットもしなきゃマンガも読まないで、智の方を見ている葵
なるほど、それでここに陣取ったわけか
ナイスでしょ。一時間分、料金、取り返せるように、堪能しなくちゃ
ケチなのか財布の紐がゆるいのか、わかんねー奴だな
ん？
俺の分なんか、おごらなきゃいいだろ？
だって、さっとんにはハジメちゃんを手土産にするのが、一番安上がりで喜ぶんだもん
ハジメちゃん、ゆーな。
田中、表情ゆがめて葵にいつもの苦情。「ってか、人を手土産にすんな、しかも安いって」とブツブツ
ちっちゃいこと、気にすんな、それ、ワカチコワカチコ〜と、葵、ゆってぃの真似
苦学生の田中、ほとんどテレビを見ないから、葵のやってることの意味がわかんない。怪訝な表情で葵を見ている。
葵、「つまんないのー」と、への字口
気を取り直してがっつり智を鑑賞する体勢にはいる葵
自分でドリンクバーのココアとコーヒーをブレンドした、なんちゃってカフェショコラのカップを両手で持って、ニコニコ笑いながら智を観察
うれしそうな葵を、アイスのスプーンくわえた田中がじっと見ている
何よ
別に。
別にって目つきじゃないでしょ
一瞬、岡崎の行く末が心配になったんだよ
は？？
金を払って、好きな男に会いに来て、ヘラヘラしてる岡崎を見てると・・・、
田中、腕組みして大げさなため息をつく
何、はっきり言いなよ
お前が将来ホストにハマるんじゃないないかと思って
…ハジメちゃん
葵、珍しく低い声で田中を呼ぶ
ごめん。謝る。ちょっと思っただけ
田中、顔の正面で手を合わせ、葵に謝罪
葵、「あるかも」と呟く
え？
さっとんクラスのホストがいたら、あたし、ハマるかもしんない
葵の表情、わくわくしている
喜ぶことか？
えー。お金払えば好きな子に会えるシステムって、サイコーじゃない？
岡崎、その、モテないオヤジみたいな発想、何とかならねーの？
「お前は、女子高生、名乗んじゃねーぞ。夢が壊れる」田中、テーブルに頬付えついてそっぽ向く
智くん、ちょっと任せていい？
平次がランチプレートの乗ったトレンチを指差す
俺、行こうか？
いい。６番ブース、かわいい子だったから、僕がいく
あ。そ。
平次、嬉々として出て行く
夕方のネカフェは程々の混み具合
いったん入店してしまえば、客はそれぞれブースの中だから、フロアは静かなもの
千里もブースにこもって調べ物
智、せっかく千里が来たのに、つまらない
ちぇー
と呟いて、変化のない千里のいるブースから、フロアに視線を移す
全体をなんとなく見渡していると、
USBメモリある？
40代くらいのジャケット姿の男に声をかけられる
はい。お届けします。
２９番
はい承りました
男、智の顔をちょっと見てからカウンターを離れる
何度か来店してるのかな。なんとなく、見たことある顔。
男に見つめられてもうれしくねーし
レジを打って、事務所の国土に声をかけて、USBメモリを出してもらう
配達であの男のブースに行くのがなんとなく気持ち悪いので、戻ってきた平次に、
配達、行く？
とたずねる智
「何番？」と平次
２９番
男はパス
平次即答
おめー、職場に何しに来てんだ？
智、仕方ないのでUSBメモリ持って２９番に向う
扉をノックすると、「どうぞ」と男の声
引き戸を開けて「お待たせしました」とUSBメモリを差し出す智
ありがとう、と愛想笑いする男
手元でマウス操作したらしく、ウインドウが閉じるのが見える
失礼します。
引き戸を閉めながら、どうせ、エロ画像でも見てたんだろと呆れ顔で持ち場に戻る智
カウンターの戻り際、智を凝視している葵と目が会う
右手を上げて派手に手を振る葵
隣では田中が知らん顔でパソコンのモニターを見ている
あんなんと一緒で、田中、よく平気だな
智、葵をスルーする
さっとん、ひどい
あ？
あたしと目が合ったのに、スルーした。
ガン見されてて、不気味だったんじゃねーの？
葵、田中を叩く
いって
女の子には、真実は必要ない。
は？
必要なのは、夢なの
はあ・・・？
葵と目が合って、照れちゃったんじゃない？とか、言ってよ
さっき俺の夢をぶち壊したお前に言われたくないよ
だから田中はモテないんだよ
葵、膨れる
田中、パソコンから目をあげて、カウンターの智を見る
智、退屈らしく、体を半身ひねって、後ろを向いてあくびをしている
かわいい
智がなにやっても喜ぶ葵
大蔵くん、どーすんのかな
田中が眼鏡を直しながらぼそりと呟く
学校、来ると思う？
来てほしーなぁ
両手で頬杖つい智を見る葵
さっとんの話、ハジメちゃんのおにーちゃんに教えてもらったけど、
大蔵くんの事件のこと？
うん。さっとんは、いっこも悪いとこないじゃん。
そうだな
なのに、なんでこんなふうになっちゃたんだろ
まあ、俺んちや岡崎んちとの違いはさ、
うん
俺んとこは、新聞沙汰って言っても、会社や親父のことしか騒がれなかったし、岡崎も、週刊誌、実名出されたりはしてないんだろ？
「まあ、周りの人たちは百も承知だったけどね」と笑う葵。田中も「俺んとこもだよ」と頷く
大蔵くんの場合は、親が起こした事件なのに、大蔵くんの…、当時は神林だけど。みんなが知っていた「神林智」の名前にバッシングが集中したってのがキツイよな。
うん
さっとん、悪くないのに、テレビ界を追放って、大人のほうがどうかしてる
脱税したのが神林智の稼いだ金って理由なんだろうけど、中学生が、税金のこととか、知ってるわけねーよな。俺なんか、うちが貧乏になるまで、授業料も給食費も、いくら払ってんのか、全然知らなかったもん
ハジメちゃん、比較対照が変
仕方ねえだろ、子どもが、お上に払う金なんて、そんなもんだ
そりゃそうだよね
葵も納得
２人、智を見ている
学校、来ちゃえばいいのに
いきなりは、難しいんじゃねーかなー？
智がカウンターで接客している様子を見て、葵、
さっとん、絶対あたしより、真面目だもんね
いえてる
一緒に卒業したいな。学校でも会いたいよ。
まーな
顔、好みだし、手品うまいし、
はいはい
もしかすると、学校来てみたら、うちのクラスで、一番、マトモな子かもしれないよ。
葵、楽しいことを見つけた子どものように、目をきょろっと動かして笑い出す
そうかもな
葵の変な表情に思わず噴き出す田中。
飲んでたお茶も噴出しちゃった田中、タオルを出して拭おうと足元のデイバッグをつかむ
かばんの中をゴソゴソ探っていると、急に葵の笑いが途切れたのに気づく
…
不審に思って目を上げると、葵が固まっている
どうした？
葵、一点を凝視して立ち上がり
あいつ、さっとん、いじめてる
椅子を蹴散らし迷路みたいなネカフェの中を駆ける葵
