フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
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『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
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アタシんちの男子の針を進めたら…

風の向くまま気の向くままで書いてたら、なんだか話が重くなってきちゃいました( ´△`)
だんだん明るくしてかないといけませんね




時田のあの人


話がそれちゃいましたね
腕時計を見て時田が軌道修正
制限時間ありだっけ
風も卓上の時計に視線を走らす
じゃあ、手短に、あと、社長が知らないあの方の話って言うと…
時田、唇に人差指を当て、記憶を探る


時田はさ、何で響子さんのことを「あの方」って言うの?社内だから?

時田、今気がついたというように口元を押さえる
何ー、気になるー
癖なんです
癖?
新造氏の影響なんですよね
時田恥ずかしそうに表情をゆがめる
風、首を傾げて話の先を促す


入社当時、小金井弁護士は、やはり憧れの女性でしたし、お仕事で付き合うようになってからは、尊敬の念も増しました。
時田、響子さんにあこがれてたの?
そりゃそうです。「美人」で「優秀」な「伝説の人」ですからね。憧れない男はいません
時田、めずらしく風にウインクしてみせる
ま、更に「良く」人柄を知るようになると、また印象も変わってきましたが
風、時田の「良く」と強調した言い方に、さっきの化けの皮の件を思い出して笑ってしまう
小金井弁護士は、大蔵新造個人の顧問弁護士として、新造氏の複雑な事情も十分理解し、とても情が厚い仕事をなさってくださいました
時田、一度言葉を切って、ひとつ息をつく
私は、常々、秘書として、大変近い立場で新造氏のおそばにいるのに、小金井弁護士には叶わないと思っていました。
心配りなどは、お手本にしたいくらいに、親身に社長ことを考えていたんですよ。
ちょうど、翔さんが飛び出して行ってしまい、猛さんも後継者を降りた頃です。智くんと明くんを引き取ったのもこの頃です。社長の心痛、心労は、一方ならぬものでした
秘書と弁護士では、仕事の内容はぜんぜん違いますが、大蔵新造を理解し、支えていこうとする彼女の気概は、抜擢人事で大蔵新造の秘書になったわたしの、一番身近なお手本でした
恥ずかしそうにめがねを直す時田
新造氏も、そのことをよくわかってらしたんだと思います。
就職一年目から、成長していく彼女のことを、新造氏はいつもあたたかく見守っていました
いくつになっても同じ関係で見守り続けていくその視線は、父親にすごく近いものだったんではないかと思っています
個人事務所を設立されて、立派に新造氏を助ける仕事をするようになっても、「今日、あの子と話をしてね…」と、ご本人がいないところでは、40歳になろうかというの女性を捕まえて「あの子」と呼んでいらっしゃいました。
その口調が、いつも柔らかくて、私は、社長がする「あの子」の話が大好きでした。
いつしか私も、新造氏のまねをして、小金井弁護士のことを「あの方」と呼んで、新造氏と彼女の話をするようになったんです
小金井弁護士は、やっぱり新造氏や私にとって、弁護士と依頼人ということばでは表現しきれない、特別な存在だったので、家族、友達、知人、友人、彼女、みたいな、特別な名前をかぶせてみたかったのかもしれませんね
親父は「あの子」、時田は「あの方」…、か
はい。今にして思えば、私たちは、社長室の中の、ある意味、家族みたいなものでしたね
少しうつむいて照れ笑いする時田を、風が柔らかい目で見つめている


時田
はい
生涯、妻帯しなかったシャーロック・ホームズは、彼を知性で翻弄したほぼ唯一の女性・アイリーン・アドラーを思い出すとき、彼女のことを常に「あの女性(ひと)」*1と呼んだんだよ
は?
「あの方」も「あの子」も、普通は好きな相手の噂話で使うもんだとおもうけど
そうなんですか?
恋愛に疎いのが、三人揃っちゃったわけだ
風、ニヤニヤ笑っている
反論できませんね
時田、あきらめたようにため息をつく
なんだろうね、その、のんきな三角関係は
風、の言葉に首を傾げる時田
三角関係、ですか?
色っぽい展開はなかったってことか
なかったですね〜
そうなると、千里のあれは完全に親父の遺伝だな

自分がかわいいとかモテるとか、一切、思い当たらないらしいから厄介だよ
「それでうちの男どもは、苦労している」と、風、楽しそうな表情で頬杖をつく
時田、腕組みをしてちょっと考え、唇に人差し指を当て呟く
翻弄されるということでしたら、私にとって千里さんが「あのひと」になる可能性はありましたね
時田まで!?
風の表情が一変、不機嫌そうに口元ゆがませる
はい。
時田、「過去のことなんで大目に見ていただきたいんですが」と前置きし、
新造氏がお亡くなりになった後、千里さんを、社長代理として、役員会議に引っ張り出したり、新プロジェクトの最終プレゼンの会場でスピーチさせたりしたんです。
会社の重役連中に彼女を認めさせたいというのは方便で、実は彼女の社長代理不適格を証明したかったんですが、千里さんは、わたしの予想以上の器でした
その度胸と愛らしさに、一瞬、自分の野心なんか捨てて、千里さんに仕えるのもいいかなと思いましたから。
風、自分が大蔵家に帰る以前に、千里にそんなことがあったのかと、めずらしく顔色を失っている
お前、性格悪いね
おかげさまで
時田、風の慌てぶりをからかうような笑顔
なんだよ、それ。重役会議は知ってたけど、千里をスポンサーの前に引っ張り出していたのは、知らなかったぞ
風、「気にいらねーな」と不満そうな表情で時田を睨みつける
あなたのその子煩悩ならぬ、妹煩悩振りを見ていると、新造氏そっくりですよ
時田が兄バカを丁寧に表現してニヤリ
俺が、親父にそっくり?
風、頬杖をガクッと外してみせる
そりゃ、親父が亡くなってからは、いろいろ俺たちのことを考えてくれてたんだってわかったけど、いつも渋い顔だった記憶しかないな
後継者育成プログラムのためには、仕方なかったんじゃないでしょうか
そーなのかなー?やってもやっても課題出されて、へとへとだった記憶しかないな。甘い顔なんか見たことないぞ
ご兄弟の前では、一言もおっしゃらなかったでしょうが、会社では凄かったですよ。
時田、新造の口真似をする
風は、何をやらせても、あっという間に習得してしまうから、次の課題を探すのに苦労しちゃうよ、とか
猛が特攻服を担任に注意されたけど、似合ってるからいいじゃないか、とか
バレンタインにチョコレート持った女の子が翔さんの学校に行列したそうだ。すごいだろ、とか
優がスカウトされたんだけど、あの子はモデルよりも映画俳優向きだ、とか
智が引きこもりを克服できたら、専用劇場を建てて、毎日智のマジックをみんながみられるようにしたい、とか
明は株が得意だから、大きくなったら、私の私財を運用してもらおうかな、とか
風、新造の激甘ぶりを聞き、開いた口がふさがらない
千里さんの洋服なんて、着るかどうかもわからないのに、10歳から10年間、オーダーし続けましたから
オーダー?
あなたのお召しになっている社長服にぴったりのドレスです
親父…
思わず額に手を当てる風
家では怖い顔して、会社では、そんなこと喋ってたのか?
はい。休憩時間は子ども自慢大会でした
親父は多忙で、ロクに会ってないのに、よく俺たちのこと、知ってたな
あの方が井上さんにスパイさせてましたから
井上さん!?セキュリティー目的の、歩く監視カメラじゃなかったのか
ある意味、みなさんのことをよく知ることも、セキュリティーになるのかも
なにそれ
なんか悩んでないかとか、具合悪くないかとか、ぐれてないかとか
自分で聞けよ、そのくらい
新造氏は、不器用でしたからね
時田やれやれという顔をする
風もつられて呆れ顔


新造氏とあの方は、本当にいいコンビでした。
時田、当時を思い出し、くすくすと笑い出す
あの方は新造さんのことがお好きでした
…あ、やっぱり、そうなの?
風、背もたれに体を投げて、頭の後ろで指を組む。その勢いで、社長椅子のキャスターも後ろに動く
ぶぶ
時田、風の反応に思わず吹き出す。爆笑こらえてるので、鼻が鳴ってしまう
社長が心配されるような意味合いではありませんよ。
時田ー、笑いすぎー
風が口の端をゆがめ、時田を軽く睨む
申し訳ありません
口元押さえて、呼吸を整える時田
先代は、あのとおり、おもちゃにしか興味のない生活を送ってらっしゃったから、あの方の、「若い」「美人」「優秀」って言う、世間が喜んで注目していたポイントに、一切反応しなかったんです
ああ、反対にいうと、聞き飽きてるようなことを、親父は1つもいわなかったってことか
はい。特に、法律事務所に採用になった一年目は、行く先々で注目の的だったのに、新造氏だけは違ったそうです
ふーん
これは、あの方から直接伺ったんですが、「小学生と同じ扱いでした」と、ふくれてました
時田、響子の物まねをするが、似ていない
時田の女口調が不気味でちょっと引いてしまう風
時田、ものまね不評なのがちょっと不満だが、仕切りなおして咳払い
あの方が、ミラクルを訪問した際に社長に会うと、「お嬢ちゃん、頑張ってるね」と言って、いつも飴玉をひとつぶくれたんだそうです。
飴玉差しだし、笑う新造のイメージが、パッと頭に浮かび、風、つい笑ってしまう
親父らしい、とも言えるか…
風が仕事を離れた響子に会うようになってしばらくたつが、響子には、歳相応な部分のほかに、びっくりするくらい子供っぽい面もたくさんあることに、風はいつも驚かされる
今より若い響子に、人一倍子供好きだった親父が会えば、その展開はさもありなんだ
風、今度は若い頃の響子が、新造に飴玉差し出されて、びっくりしている顔を想像してみる
一生懸命、背伸びしていたであろう社会人一年生は、きっと傷ついたんじゃないだろうか
繰り返し飴玉差し出す親父を、「やなオッサン!」と思ってたかもしれない
その頃は、きっと飴玉親父の顧問弁護士になったり、その息子と付き合うようになるとは思ってもいなかったろうな
風、千里と変わらない年頃の響子を想像してみるが、うまく出来ずに四苦八苦
今度、昔の写真見せてもらおう
と、どこのカップルも付き合った初期に思い立つ定番ネタを響子に振ってみることを決意する風


その、あなたがお召しになっている社長服のポケット
時田が、ニヤニヤ笑っている風を指差す
気がついた風、自分のポケットに手を当てる
これ?
新造氏は、いつ、小さな子どもに会ってもいいようにって、いつも、そこに飴玉を、常備していたんです
なら、俺も今度入れとかないとな
風、空のポケットに手を入れて笑う


風のしぐさを見つめていた時田の表情が少しだけ曇る
おしゃべりな時田の言葉が切れたので、風、不思議そうに顔を上げる


社長は、本当に新造氏によく似ていらっしゃる
そうかな。あまり思わないけど
お顔立ちではなく、後姿や、背格好、今みたいに少し下を向いているところなんか、ドキッとします
俺にはわからないけど、他の人が見たら、そうなのかもな
風、ちょっと恥ずかしそうに眉根を寄せる
時田、ちょっと黙り込んで、あごに手を当てる。
そのしぐさは話そうかどうしようか逡巡しているように見える


…あの方が飴玉貰ってた頃に、新造社長の人生をかえる、1つの大きな事件がありました。なんだかわかりますか?
いや
響子さんは今42歳。飴玉貰っていた頃は22歳。今から20年前のことです
それって、
風、ちょっと言葉が出てこない
給湯室の恋話にしては、落ちが重すぎだろ、時田
風、あきれたように微笑む
さっきまでの楽しい新造と響子の昔話が、あっという間にかすんでしまう
すみません。でも、そういうことです。
・・・
当時。仕事を始めたばかりのあの方は、ミラクル担当弁護士の下についていました。
研修中とはいえ、彼女にとって担当したクライアントの最初の難事件。仕事を始めたばかりのあの方が、初めて見た現場
回りくどいいい方しなくていいよ。
・・・
お袋が、親父に俺のことを話したんだろ?
…はい
もしかしてそれ、さっき言ってたことにつながる?
風、話の急転直下に時田を呆れ顔で見る
話の枕が長すぎるよ
すみません


つまりはそれが、響子さんが俺にうなずかないかもって時田の勘の根拠ってことなんだろ?


時田、メガネを外して、レンズのくもりを神経質にふき取り、
時間切れ、にしてもよろしいですか?
メガネをかけなおす
構わないけど、やなとこで切るね
風、浮かない顔でため息をつく
申し訳ありません
風に頭を下げる時田
もしかしたら、あの方から直接聞いた方がいい気がしてきました
まあな
やっぱり私はこういう話には、向かないようです
時田、申し訳なさそうな表情
いーけどさ
風、手元の空になったカップをトレイに乗せる
トレイを受け取り、自分のカップも乗せる時田


寸止めか
風、髪をかき上げ、うなじの辺りで手を止めて、あらためて時田を見ると苦笑い
やっぱり、時田は性格悪いな
はい
時田、謝罪の意味をこめて、表情を引き締める
あの方は、亡くなった新造氏の代わりに、あなたを見届けたいと、思っているのではないかと、私は推測しております


あり得るね、あの人なら


風、時田にうなずきながら、俺も「あの人」といい始めていると、響子の顔を思い浮かべる




*1:the woman