アタシんちの男子のその後を考えよう
さてさて
話が強引になってきますが、笑って許してくださいね
お城の間取りは、巻物に従っていませんのであしからず
もう修正できなんだもん(笑)
誤字脱字加筆修正あります
いつもすみません
田辺家
夕方5時
田辺家での千里の勤務時間の終了時刻ぴったりに、シルバーの小型スポーツカーが、「バタバタバタ…」と気の抜けた2気筒エンジンの音を立てながら、田辺家の庭に入ってきた
縁側で喋っていた千里と義男、入ってきた車を見る
ヨタハチ!!
ヨタハチって?
トヨタ・スポーツ800だよ
義男がうれしそうに微笑んでため息をつく
千里、首をかしげる
こんにちはー
停車した車から降りてきたのは太郎
太郎さん!
千里が驚く
どうしたの、今日は
今日の太郎は、いつものカジュアルな服装と違い、モッズスーツにチェルシーブーツ。古い形の車にすごく似合ってる
そういう格好をすると、太郎ちゃんも大人になったなって思うよ
そうですか??
にっと太郎が笑う
まあ、勤め人には見えないけどな
ふふふ、と義男も笑う
今日は、大蔵家のみなさんに、お世話になった挨拶しに行くから、ビシッとしとかないと
太郎、ジャケットの襟を、「ビシッ」と口で擬音をつけて整える
その仕草がおかしくて、「似合うよ」といいながらも、千里、笑ってしまう
笑いながら言われても、説得力ないし
太郎、わざとらしく膨れてみせる
その表情に、また笑ってしまう千里
二人が話している間も、義男は車に夢中
俺たちが、若い頃、憧れた車だよ
義男、サンダル突っかけて、庭先に停まった車を熱心に眺める
ちょっと無理して買っちゃいました
あんまり熱心に義男が食いついてるので、千里もそばまで行って車を見る
いくらだった?
フロントを覗き込んでいた義男が、太郎に尋ねる
太郎、2、7、0と指で作る
そのくらいはするんだろうな。年式は?
1969年です。俺より15歳先輩
だろうな。
義男、子供みたいにわくわくしている
それより、メンテナンスが大変ですよ。部品の入手とか…
これ、オープンカー?
千里が車を眺めながらたずねる
んー、幌やなくて、硬い屋根が外せるん。
ふーん
タルガトップとか、デタッチャブルトップとかいうんやけど。アクティブトップと違って、「屋根を付けておくか・外しておくか」だから、天候の変化に弱いんやけどね
立て板に水の太郎の話、半分も千里の頭には入ってこない
太郎、千里の表情に気づき、自分の口を抑えて「ごめん」と苦笑い
じゃあ、そろそろ行こうか
太郎が千里を促す
じゃあ、義男さん、また明日
おう。よろしくな
車に乗り込む二人を見て、義男、感慨深げに
太郎ちゃんと千里が、二人並んでいるとこを見るのも、しばらくないと思うと淋しいよ
義男、自分がちょっと涙目になってるのに気づき、「年をとると、涙もろくなって、いけないな」と照れ笑い
千里と太郎、顔を見合わせて笑う
俺、まだ明日もここに寄るつもりなんやけど
あたしも仕事にくるし
そうだったな。太郎ちゃん、安全運転で頼むよ
はい
気の抜けたエンジン音を立てて、おもちゃみたいに懐かしい車は、田辺家を後にする
車がトリックハート城の敷地に入る
気持ちいいねー
髪を風にあおられながら、千里、笑顔
千里ちゃんを乗せるのが夕方でよかったよ
え?
夏は、意外とオープンカーに向かない季節なん
そうなの?
日には焼けるわ、パーキングでシートは熱々になるわ、夕立が降ってびしゃびしゃになるわ…
屋根つけたら?
古い車だからエアコンがないし、
不便だといいながらも、顔はニコニコ笑ってる太郎
ツーシーターなので軽トラに乗っていたときと似たような距離感だけど、今日の太郎はなんか違うな、と思う千里
今日の太郎さん、大人っぽい
服のせいちゃう?
そうだね
頷く千里だけど、それだけかな?と首をかしげる
お城の車寄せに到着
ドアに手をかける千里を止めて、「いつかのリベンジさせて」と運転席を降りて千里をエスコート
翔みたいに、上手には出来ないけどな
照れ笑いで千里に手を差し出す太郎
ありがと
千里、絵のように優雅に車を降りた七海の姿を思い出す。
「あたしにはできないな」と千里、あきらめて、ぴょこん、と跳ねるように車を降りる
車をお城のガレージに置きに行ってる太郎を、千里が玄関先で待っていると、太郎が花束抱えてやってきた。
はい
の花束を千里に差し出す
あたしに?
うん。千里ちゃんにはいろいろお世話になったから
「義男さんちで渡すの、ちょっと恥ずかしくて」と頭をかく
わー。すごーい
カラフルな真夏のブーケ。バラ、ヒマワリ、ケイトウ、薄紫のアゲラタム、ブラックベリーに、グリーンはミスカンサス
花束を腕に収めて、目を見張る千里
ありがと、いいのかなー
おもちゃの良し悪しはわかるんだけど、女の子への贈り物はよくわからないから、無難にお花でごめんね
うれしいよ。卒業式とかでしか、貰ったことないし
笑顔で花束を見つめている千里を見て、「かわいい」と太郎がいう。
なに言ってんの、やだなー
かなり本気で、大阪につれて帰りたいんですけど
今度、遊びに行くから、案内してね
こんだけ言ってもわからない、鈍感千里に、太郎、逆に笑ってしまう
?
太郎の笑いに気づいた千里、「なに?」と尋ねる
なんも
そ?
太郎の手に、もうひとつ花束があるのに気づく千里、
それ
うん、井上さんに
きっと喜ぶよ
そうだといいけど
千里、玄関の照合機を押す
山
<<川>>
豊
<<の新曲は>>
函館本線!
<<の発売記念インストアライブを行ったのは>>
銀座山野楽器!!
2人で声を合わせて山川豊クイズを正解して、玄関を入る千里と太郎
廊下を曲がって井上さんの額の前まで来ると、幸いにも待機中
ねー、井上さん
太郎が平面の井上さんに声をかけると
はい?
ローテンションで返事をして額から飛び出す井上さん
はい!
太郎がブーケと差し出す
お城、案内してくれて、ありがとう
ミニひまわり、サンダーソニア、トルコギキョウ、スプレーバラ。元気なビタミンからーのブーケは、メイド服に似合うように、少し小ぶりに作られている
あ…
井上さん、花束手にしてちょっと頬染めたような気がしたけど、あっという間にいつもの能面フェイスに戻り、
また来いよ、待ってるぜ!
太郎にV サイン
太郎もVサインを返す
2人の様子を見て千里、笑顔
井上さん、お花、生けたいの、花瓶ある?
あー、ありますよ
太郎さん、お花生けてくるね、リビングに行ってて
うん
あ
井上さんと歩き始めた千里、太郎のところまで戻ってきて
携帯、水没させちゃうといけないから、持っててもらっていい?
とポケットから携帯電話を出して太郎に預け「リビングのデスクにでも置いといて」とお願い
わかった
お待たせー
千里、リビングに花瓶を抱えて入ってくる
携帯、ここに置いたよ
デスクを指差す太郎。うなずく千里。
ダイニングテーブルのセンターに花瓶を置いて、あらためて花を見て、千里、「ありがと」と、もう一度太郎にお礼を言う
井上さんは?
自分のお部屋に、お花を置きに行くって
井上さん、お部屋があるんだ
うん、あたしも初耳。
まあ、一日中、額の中ってわけないもんね。
そうなんだけど、いつも、大体、額の中で待機してるんだよ
千里、「いつ寝てるのかが、わかんないんだよねー」と首をかしげる
ねぇ、千里ちゃん、
ん?
城の中を探検していたら、面白い部屋、見つけたんだ
へー。
多分、千里ちゃんも知らないと思うよ
どこどこ?
こっち
太郎、リビングを出て、井上さんの額の廊下まで戻る
井上さんの額はまだ抜け殻
ここ
ここ?
玄関から階段を上がってきて、リビングに行く、廊下の曲がり角。アンティークの電話機が置いてある。
太郎の指差したのは、その電話機の隣の壁
ただの壁に見えるけど
でしょ?
この前、電話機いたずらしてて気がついたんやけど、この電話、ダイヤル回すと、識別音みたいなのが聞こえてね…
太郎、受話器を取って、ダイヤルを回す
何回か回したあと、受話器を置くと、リンと、小さい金属音がする
すると
ごごごごごごごご
電話の隣の壁がスライドして人一人通れるくらいの幅に開く
わ!
千里、驚いて眼を見張る
え、何したの?
暗号、解いちゃいました!
太郎、にこっと笑って親指を立てる
なんでわかったの?
小さい頃、新造さんから聞いたことがあってんけど、
うん
新造さんが、自分で新しく家を作るときは、書斎のほかに発明の部屋も作るんだって、言ってたのを思い出してん
61、43、74、12、55、64、81
ポケベル?
そう。「は・つ・め・い・の・へ・や」
え、そのまんま?
そうみたいやな
行ってみよ
うん
狭い通路を抜けていくと、こじんまりとした部屋に出る
多分、ここが、新造さんの発明の部屋
太郎が灯りをつけながら言う
部屋にはいって、一番最初に見えたのは、発明品が飾ってあるショーケース。その隣には本棚
もう一面の壁沿いに図面筒がたくさん入っている収納BOX。並んである製図板には羽根ばたきが乗ったまま
向かい合う壁には工具類がかかっていて、作業台からすぐ手が届くように配置されている。ジグソーや万力が据え付けられている作業台には、作りかけの発明品や、ねじやビスが入った部品箱
そして、もうひとつの壁にはトリックハート城の絵。その絵を囲むように、兄弟一人ずつの写真が、額に入って飾られている
部屋の真ん中には、木製の立方体の椅子だろうか。背もたれがないから、すわったまま、自由にどの壁も見ることが出来る
千里、圧倒されたように部屋を見回している
新造さんの頭の中を見ているみたい
びっくりしたでしょ
うん
俺も、最初に入ったときには、驚いた。まるでさっきまで新造さんがここにいたみたいで
千里、部屋中あちこち、何度も見回しすぎて、目が回りそう
みんなをびっくりさせることが、大好きだった新造さんは、ここでこっそり、いろんな作業をしていたんだと思うよ。みんなの笑顔を、思い浮かべながらね
ほら、ここの床、開くようになってて、
太郎が床の一部を引き上げる
千里、一緒に暗い穴を覗き込むと床下に階段が続いている
下にはちゃんとトイレや水場や、仮眠室も備えてあるんだよ
ほんとに隠れ家だね
うん
太郎さんが、熱心にお城を探検していたのは、このお部屋を探すためだったの?
そればっかりでもなかったんだけど。見つかったらいいなあとは思ってた
太郎さんは、新造さんの思い出、いっぱいあって、羨ましいな。
大阪に行くまでの、小さい頃の思い出がほとんどだけどね
千里ちゃん、俺ね、新造さんが大好きだった
新造さんに娘さんがいることは、知らなかったから驚いたけど、千里ちゃんに会えて良かった。
うん、わたしも、今まで知らなかった新造さんの話が聞けて、楽しかったよ
俺ね、ここんとこ、考えてたことがあるんだけど
何?
千里ちゃんを、連れて行きたいところがあるんだ
他にも、秘密のお部屋を見つけたの
ううん
?
俺んち
え
俺んちに、来てくれない
いつ?
この先ずーっと、俺と一緒にいてほしいんだ、千里ちゃんに
あの
やっぱり千里ちゃんにはちゃんと言わないと通じないんだな
?
一緒に大阪に来て欲しいんだ
ちょっと待って
さすがに展開がなんとなくわかった千里
俺と、結婚してください
!!!!!!そんな突然言われても!!!!!!
千里mその辺のものにぶつかりながら、がたがたと後ずさる
そんな千里を見てくすくす笑う太郎
突然じゃないよ。もう20回も、意思表示してたのに、千里ちゃん、全然、わかんないんだから
…全然わかんなかった
だろうね
太郎、ため息
千里、赤くなる次第にもまだならないほど、びっくりしている。まさしく、はとが豆鉄砲食らったかのような表情
考えたことも、なくて
うん、だから、考えて
・・・・・・
制限時間は3時間
は!?
この部屋には、新造さんが篭るように作った部屋なんで、さっき紹介したように、トイレも水場も完備してます。
は!?
お菓子もたくさん用意したから
作業台の上には山盛りの菓子鉢
太郎さん、ちょっと、
じゃあ、よろしく、と太郎部屋を出て、扉を閉める
ごめん、千里ちゃん。ちょっとの間だけ、ここにいてくれる?
扉の外で、太郎の優しい声がする
いくら優しい声だからって、閉じ込められたことには変わりはない
千里、遠ざかる足音を聞いて
えー、ほんとにー
あっけに取られ、部屋を見回す