フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
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『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
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アナザーワールド5.5 

CASE2
世迷いごとです。許してください?

5話と6話の間の妄想






   彼女SIDE
トリックハート城の中にあるあたしの部屋、通称「恐怖時計の部屋」に入る
新造さんの発明品が出迎えてくれる。
「ただいま…、おかえり…、か。」
着替えもしないでベッドに身を投げる。
大蔵家のベッドの匂い。よその家の匂いだけど、その中にあたしの匂いが隠れている。
ふかふかのベッドの幸せ。
慣れたはずのホームレス生活だったけど、空腹とぬくもりには逆らえない。
あっという間に体は満ち足りたものへと傾斜する
「おかえり」
彼の声が耳の奥に残っている
あたし、家族に迎えてもらえるのって、何年ぶりだろう
温泉騒動が終わり、兄弟と一緒にまたこのトリックハート城に帰ってきた
カレーを作って待っていてくれた翔が「おかえり」と笑ってくれたとき、懐かしいようなせつないような不思議な感覚に陥った。
一億円の条件とか、新造さんのためにとか、そんなこととは別に、あたし自身がここを自分の家のように、大蔵家の人たちを家族みたいに感じ始めているみたい。
そんな自分に戸惑って、「ただいま」が少し小さくなってしまった。
もっとも、こんな些細な驚きよりももっとすごいやつがすぐにやってきたけど。
一難去ってまた一難
「難」の字はそのまま「風」に変換可能
「新しい彼女って何よ〜〜〜」
そもそも今回の騒動だって、風が原因じゃなかったっけ?
…でも、風のおかげで猛、優、智、明の誤解は解けたから、良かったこともあったけど、さ。
風、あたしを彼女にして何かいいことあるんでしょうか
「理解不能」
考えたって答えは出ない。出口のなさに眠気が差してきた。
明日のことは明日考えましょう
おやすみなさい
     *
歯車、発条、ギ〜、ガシャン。ゴーン。ゴーン。
恐怖時計発動。二点鐘。
「あ〜、もう。こんなんじゃまた眠れないよ」 
恐怖時計の鐘は、時報なんて生易しいもんじゃない。お寺の釣鐘の中で暮らしているようだよ
「あの子達、帰ってきていいって言うなら、部屋も変えてくれればいいのに」
甘かった。布団を頭からすっぽりかぶって、もう一度寝直し。
次の時報までに、目がさめないくらい深く、熟睡してやるんだから。

普段からの寝不足や、温泉掘削騒動の疲れも出て、すぐにうとうとし始める。
   ・・・
「?」
   ・・・
「?」
   ・・・
ドアをノックする音。
やめてよ。せっかく眠れそうなのにー。
   ・・・
「…千里ー。…千里さーん。お母さーん。」
声。…誰?
あたしはせっかくの眠りを邪魔された不快感を顔に貼り付けて、這うようにドアを開けた。
そこにいたのは彼だった。
「なによもう」
「この部屋、うるさくて眠れないだろ」
「当たり前でしょ。今、やっと眠れそうだったのに」
「ごめんごめん」
「せっかく帰って来られたから、わがまま言えないけど、さすがに寝不足…」
その言葉を聞いて、彼がにこっと、ホスト仕込みの笑顔を作った。怪しい。
「?」
「そんなお母さんに、ゆっくり休んでもらえるよう、今晩は俺のベッドで寝てもらおうかと思ってさ」
「ええっ!」
余りの驚きに目が覚めてしまった。彼のところに泊まるってこと?大声を上げたあたしの口元を彼の大きな手が覆う。
「しー、しー、しー。みんな起きちまうだろ!」
背後から抱きかかえられるような格好になってしまい、鼓動が跳ね上がる。
あたし、確かに新造さんとは結婚していたけど、親子みたいに暮らしてたし、借金取りにおいまわされる生活だったから、まともに男の人と過ごしたこともないし、
…もちろん親子なんだから、何かあるってわけないし、親切で言って来てくれてるってのはわかるんだけど…。
時計の部屋以上に眠れないに決まってる!
「…無理!」
もがいて何とか彼の手をはずし小声で叫ぶ。
「なんか、変なこと考えてるだろ。」
「かかかか考えてないよ」
「話を良く聞けって。いくら親子だからって、年頃だもんね、意識しちゃうのも無理ないと思うよ。母さん。ほら、俺いい男だし」
「なななな、なん、なんのこと?」
彼はあたしの肩に手を置いて、紳士的に微笑む
「安心して。俺の部屋においでって言っているんじゃないよ。今晩、部屋を交換しようって言ってるの」
「交換?」
「今夜はあんたが俺の部屋を使って、俺があんたの部屋を使う。OK?」
「でもそれじゃ、翔が眠れなくなっちゃう」
「ずっとなんていってないだろ。一日くらい平気だよ。オレは温泉堀に行かなかったしさ。とりあえず今夜は疲れているだろうから、ゆっくり休んでもらって、明日以降のことはまたみんなで話せばいいじゃん。」
彼のホストスマイル炸裂に、なーんか怪しいものを感じつつ、あたしは話に乗ることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
     *
最近家に帰ってきたばかりの翔の部屋には、まだそんなに生活感もなく、部屋の隅には荷を解いていない引越しのダンボールもあった。
思っていたよりも男の人の部屋って、意識しないですみそうだ。
ベッドサイドには力の写真。
「さみしいよね。」
彼は、力のためを思って、一緒に暮らしていた力を母親に託し、最近トリックハート城に戻ってきたばかりだった。
「落ち着いたら、力も遊びに来ればいいのに。」
早くそんな日が来ればいいなと思う。力と翔が一緒に写ったフォトスタンドを手にとって、ごろりと横になる。
父ちゃんと母ちゃんを仲直りさせるために起こした狂言誘拐事件を起こした子。大蔵家の人々はみんな肉親に縁が薄いので、ついつい手助けをしてしまった。でもそのおかげでいいプレゼンができたんだよね。
新しいシーツの感触。洗剤の匂い。体がベッドに吸い込まれていく。
「やっぱ疲れてたんだよ」
渦巻きみたいにベッドの中心に引き込まれる感覚の中に、ふわっと鼻腔をくすぐるちょっと懐かしい匂い。
懐かしい?…なんだっけ。
彼の匂いだと気づいたとき、ちょっと恥ずかしくて、眠気のスパイラルが停まりかけたけど、すぐに疲労が勝ってしまって、あたしは何日かぶりの深い深い眠りに落ちた。



   彼SIDE
「まあね、優しい振りして家捜しするんだけどさ。」
オヤジの遺産が時計の部屋にあるらしい。あいつらが温泉を掘っていたときに、オレはこの部屋を掘り返していたんだが、まだそれらしきものは見つからなかった。
オヤジのことだから、簡単に見つからないように、なぞなぞみたいな仕掛けをしているんだとは思うが、
風より先に見つけておきたい。なんか、いやな予感がするんだ。あいつの考えていることは理解不能だ。
俺たちが彼女に馴染んだ頃合を見計らったようにぶっ壊しに入る
取り越し苦労かもしれないけど。
ギ〜ッと、何かがきしむ。続けてがしゃんとギアが入るような音。
「ぐぁ」
轟音といっていいほどの三点鐘。
恐怖時計とはよく言ったものだ
耳をふさいでも全然意味がない。音圧が体にビリビリ来る。後、残響
「耳栓持って来ればよかったな」
耳の置くがキーンとする。
「あいつ、難聴になるぞ、間違いなく」
一時間ごとにコレでは眠れるわけがない。
オレもさっさと宝探しを片付けないと、鼓膜が持たないかも。
     *
二、三時間で済ますつもりの宝探しが、朝までかかってしまった。
やっぱり親父の考えていることは、わからねえな。
     *
時計の部屋を後にしてサウナに向かう
余り音を立てないように気を使いながら作業をしたから、ちょっと体が凝っている
     *
あと1時間。みんなが起き出す前に彼女をたたき起こして、仕事まで少し寝よう。
     *
部屋に戻るってみると、彼女はベッドカバーも捲くらずに熟睡していた。
「風邪引くぞ、バカ」
揺り起こそうとそばまで行くと、彼女の手元に力のフォトスタンドがあった。寝入る直前まで見ていたようだ。
「う〜ん」
少し呻いて彼女は寒いらしく、体を縮こまらせてようとする。
「危なっ!」
フォトスタンドが体の下敷きになりそうだったので、とっさに手を伸ばした。彼女の体とフォトスタンドの間に腕を挟む。危機一髪。
「ガラス、割れたらどうするんだ。怪我するぞ」
フォトスタンドを引き抜く。
「さむ」
彼女は胎児のように体を丸めながら少しうつぶせになる。
「当たり前だろうが、うわ」
丸くなりながら、俺の右腕を抱きこんでしまった。
「おれで暖をとるなよ」
彼女の肩を軽く揺すってみたが反応がない。無理ないか。何日ぶりかのまともな寝室だからな
「しょうがないなー。あと1時間だけおまけだよ、おかーさん」
腕を預けたまま左手で頬をつつく。ぷにぷに。やーらけ。二十歳だもんな
親父も何考えてたんだろうね。二十歳と結婚って
養女じゃ、いけなかったのかな。
まあ、養子で散々失敗して懲りたのかもしれないけどさ。
三ヶ月の母親期間が終わったら、大蔵家と縁がなくなってしまうのは、ちょっと淋しいよな
「っくしゅん」
「言わんこっちゃねえ」
彼女に取られていた右腕を何とか引き抜いて、もう一度方を揺さぶる
「起きろー。風邪引くぞー。」
「う〜ん」
「起きないならせめて布団掛けて寝てくれ」
「う〜ん」
「う〜んじゃなくて」
「うん…」
もそっと、彼女は腕で上半身をやっと持ち上げたが、また止まってしまった。寝起き悪いな。
再び動き始めたら、今度は猫が毛布を手繰るように、自分が入れる隙間だけ布団をたくし上げてもう一度ご就寝あそばした。
「ぷ」
思わず噴出してしまう。男心よりも父性本能が起動しそうだ。
肩口まで布団を引き上げてやって、布団の上からあやすように彼女に手を置く。
「三ヶ月でいなくなったら、つまんねえな」
だいぶ、空が白んできた。
そろそろ俺も仮眠を取らなきゃ。
かなり不自然だけど、
彼女のいるベッドの、ベッドカバーの上に毛布に包まって横たわる
オレは構わないんだけど、起きて「キャー」とか、ちょっといやだし
寝転んでみると、なんだか俺も疲れていたみたいだと気づく
彼女の体の向こうにあるめざまし時計を手に取り、とりあえず六時に針を合わせる
「六時にこいつを起こして、もう一眠りしよ」
いやみのように彼女の枕元に目覚まし時計を置いて、俺の起床用に携帯電話のアラームをセットし、枕元に置く。体の右側を下にしたいつもの寝入りの姿勢をとり、枕に頭を据える。少しぐりぐりと頭を動かして、眠りやすいポジションを探す。
かすかに人の寝息
目を開けると彼女のちいさな顔。艶やかな髪。透明感のある色素の薄い肌。長い睫毛。明け方の室内の灯りで見ると、妙に神々しい。
どきどきするというより、落ち着く。
ひと月もいないうちに、すっかり家族だ。いないとなんだか落ち着かない気持ちになるんだからおかしなもんだ。
どうするのかね、こいつ
優や智はすっかり懐く段階を通り越してしまっているし、猛にも明にも認められるようになって来た。
問題なのは、風と時田だ。風の彼女宣言の思惑もわからないし、時田が会社に彼女を関わらせるのにも納得いかない。
「親父の遺産、厄介なもんでなければいいけど」
手を伸ばして乱れた前髪を梳く。二度、三度。
俺は、守っちゃうのかね、こいつのことを。
髪をなでた手を頬に滑らせた。
「えい」
思い切って手を伸ばし、彼女の向こうの目覚まし時計のスイッチを切る。
一日くらい、ゆっくりしてもいいんじゃないの?
オレももう眠ろう


   彼女SIDE
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
とおくに なってる おと 
なんのおと?
アラーム音
キッチンタイマー。火災報知器。あたしの目覚まし時計、こんな音じゃない。
目を開けると、見慣れない天井
昨日、彼が部屋を変わってくれたんだっけ。久しぶりにぐっすり眠った。
うーん と布団の中で伸びをする。と、右側の手足の伸びが妨げられる。
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
だんだん大きくなっていくアラーム音
「何?」
頭をころんと右に転がす。と。
「!!!!!!!!!!」
声にならない叫び。
何でいるのよあなた。
思わず飛び起きてしまった。その勢いで、羽毛布団やベッドカバーも引き攣れる
「お、」
その動きで目を覚まし、枕に半分埋まっていたアラームの正体、携帯電話を取り出したのは、さなぎのように毛布にぐるぐるに包まった、彼。
「おはよう。」
「おはよ…」
「眠れた?」
「…おかげさまで。…てか、」
「ん?」」
「何でいるの?」
「俺の部屋だし」
「交換したんだよね。」
「したけど、恐怖時計の部屋じゃ俺も眠れないし、今日、仕事もあるから休んでおかないと。」
「……」
「心配ないよ。並んでいただけで、布団の中には、入っていないから。まあ、オレは平気だけど、アンタには刺激強いかなあと思って。ほら。オレ、魅力的だし。」
「心臓に悪いよ。」
「母親に手は出しません。」
「そう…」
「指1本触れてないかって言われるとアレなんだけど」
「アレって何よ」
「戻るときに、あいつらに見つかんないでくれよ。殺される。」
「自業自得」
ドアノブに手をかけたら、彼が声をかけてきた
「でも良く眠れただろ?」
そういえば、久しぶりの熟睡&爆睡
「うん、ありがと」
バイバイと手を振って、部屋の外の安全確認。足音を忍ばせて恐怖時計の部屋に戻る。
     *
「あ〜」
びっくりしたー
自分のベッドに勢いよく飛び込む
きしきしとコイルがきしむ
確かにあたしのベッドの匂い
今日も騒がしくなるんだろうな。
でも、よく眠れた成果、心配しないでもいいかなって、気持ちになれた。
彼に感謝しなければ