フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
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『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
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アタシんちの男子のその後を考えよう

出先から、携帯メール投稿とかしてみます(笑)
もちろん、加筆修正あります



とん とん とん とん


本当に微かなノックの音
ベッドに横たわっていた千里が目を覚ます。
普段は大きな音でもなかなか目覚めないのに、最近はこの小さい音を聞き逃さなくなった。人間の耳って不思議
部屋の前を離れていく足音を追いかけるように、ドアを開ける千里
おかえり
ただいま…。―――静かにしたつもりだったんだけど
ごめん、と翔が謝る
平気だよ。本読みながら眠ちゃってたから
着替えもしなきゃならないしねと、千里は自分の洋服の胸元に触れる
ってことは、待っててくれたのかな?
からかうような笑顔の翔
そういうわけじゃ
といいながら、もちろん図星の千里。素直に返事ができない
翔がニコニコ千里を見ている。
いつもと同じ優しい笑顔なんだけど、今日は少しピントが合ってないみたい
酔ってるの?
いつもの質問をする千里。でも翔の答えはいつもと違って
千里の顔見たら、安心して酔いが回ったみたい
と自分の頬に両手を当てて、珍しいことを言う
千里、ちょっと驚く
お水だったら、あるよ
うん。もらう
千里、翔を部屋に入れて、水差しを持ちにいく。
翔、ベッドの上の本を見つけて、
この間の続き?
そう
読み終わった?
もう少し。いつも途中で寝ちゃって、読み直してるから、なかなか進まなくて
トリック、教えてやろうか
読んだの?
うん。犯人はねー
やだやだやだ
千里、耳を押さえる
千里のしぐさがかわいくて、翔、ついつい笑ってしまう
千里の手にはレトロモダンな切子の水差し。対になったグラスを翔に渡して水を注ぐ
さんきゅ
キッチンが遠いから、お水だけは持ってきてるの
俺も今度そうしよ
水を飲んでる翔を見る千里

なんかいつもと違う
ん?
翔が自分で「酔ってる」って言うの、めずらしいよね。
そうだったかな
おかわりとグラスを差し出す翔
いつもより少しゆったりとしたしぐさの翔を見て、千里ニコニコ。水を注ぎながら「なんかかわいい」と呟く
お?
ちょっと隙ができるからかな
そういうことを千里が言いますか?
え?
意味を取り損ねた千里が首を傾げる
気になる?
ん?
お酒の匂いする?
ま、少しは。でも、平気だよ?
あんまり飲まないようにしてたんだけど
翔、椅子のアームにちょっと腰掛ける
いつもより、お客さんが多かったの?
うん。今日は送別会だったんだ
ふーん。誰の?
俺の
え?
店、少し休むことにしたの
千里、びっくり
遺産騒動のときも少し休んだんだけど、今回、長期になりそうだから、店を離れるって言ったんだ。でも、店長が籍は残しといてくれっていうんだよ。
翔、明るく笑っていつもの軽口「やっぱ、NO.1ホストは他の店に渡したくないんだなー」
なんかあったの?
心配そうな千里の表情。翔はゆっくり首を横に振り、千里を安心させるように優しく笑う
お金、前ほど必要なくなったってのが、一番の理由かな
ホスト、辞めるの?
うーん。今は、とりあえず、ちょっとだけ休むつもりでいるけどね。俺、今の仕事、結構気に入ってるし。ほら、人の喜んでる顔が見えるしさ
翔、千里をちょっと見て、視線を新造さんの遺品の入っているダンボールに向ける
俺ね、親父の仕事に興味がでてきたんだ
新造さんの?

太郎さんが、来たから?
お、なかなかスルドイねー
翔、からかうように千里を指差す
この前、太郎がうちに来た時に、一緒におもちゃを見ててさ
ハマってたよね
そー、親父のおもちゃを、太郎、すごく楽しんでた。そん時、千里が発明品の説明をしてたろ?「あの時、新造さんがこんなこと言ってた」って…
うん
あれ、聞いててさ、俺、親父のこと知りたいって思ったの
たとえばさ、親父が力にくれたプレゼント
いつ会えるかわからない力に、おもちゃメーカーの社長である親父が、山ほどあるおもちゃの中から、どんな思いであれを選んでくれたのかなって。大事に大事に、カードと一緒に、宝物のようにトランクに入れてさ
・・・
俺、後継者育成プログラム、途中で放り出して家を出ちゃっただろ?だから、一度、ちゃんと親父の仕事と向き合いたいと思ったんだ。
ミラクルに、入るってこと?
どうなるかな。一応、修業させてくれと、たのんだけどな
ふーん
千里、翔の言葉を頷きながら聞いている
翔、空いたグラスを置いて、千里の部屋にある、新造の発明品を手に取り、ちょっとながめる
たとえばこれは?
にっと笑って千里に示す
発明品を受けと取った千里、記憶の中の新造さんの口真似をしながら、発明品の解説をする
ハイパワーリモコン
テレビの電源からクーラーの温度設定まで、すべての家電製品を超強力電波で操作できるんだ。もちろん部屋の外からだって使える
朝、家族があわただしく食事をとる。子供たちは勝手にチャンネルをいじり、クーラーの温度を上げたり下げたりでやりたい放題。
新造さんのおっとりとした口調をまねる千里。一呼吸置いて翔を見る。
そこでこれが活躍するはずだった。
翔が小首を傾げて先を促す。
千里、少し寂しいほほえみを浮かべ、新造の言葉を再現
こんなガラクタばかり作って、子供たちには肝心なことを何一つしてやれなかった。本当は優しい子達なんだ。せめて、食卓を囲む家族のぬくもりを教えてやりたかったなあ。
一通り喋って、千里、えへへ、と照れ笑い
それで母親十箇条になるわけか
翔、腑に落ちたという表情
千里
ん?
そういう話を俺に教えてほしいんだ
・・・
俺たちが聞けなかった、親父の思いを、聞いて見たいなーって思ってさ
翔が千里に掌を差し出す。
千里、ハイパワーリモコンを翔の掌に載せ、そのまま少しの間、自分の掌も重ねたままにしてみる。
新造さんの想いが、翔に伝わりますようにと願いながら


ハイパワーリモコンに思念を送り終わった千里、よし、と弾みをつけて手を跳ね上げる
その弾みでバランスを崩したように、翔ふざけて体を傾けて見せる
大げさなんだから
うちで一番強い井上さんを負かした千里にはかなわないよ
「いてて」とわざとらしく腕を押さえる翔
翔の小芝居に、千里、思わず噴出してしまう


と、言うわけで、明日は初出勤だ
ご馳走様とグラスを返す
慌しいね。じゃあ、早く休まないと、明日が辛いよ
翔の背を押してドアまで送り出す千里
みんなは知ってるの?
風はな。みんなには、明日、話す
そう
うん。千里には、先に言っときたいと思ってたんだ。良かった。起きてて
え?
ほら、朝、突然話して大騒ぎされたら、遅刻しちゃうだろー?
と、翔、ニヤニヤ笑い
ひどい!
千里、ばしんと翔の腕を叩く
痛て!
声が大きい!
千里がバカ力で殴るからだろー?
二人で声を潜める。笑いをかみ殺してると、かえって後を引いちゃって、なかなか笑いが収まらない
目尻にたまった笑い涙を指で拭いながら千里、翔の背中に向って言う
翔がちゃんと考えたことなら、反対なんてしないよ。
・・・
気のすむまで、やってみたら?―――応援する
うん、そういうと思った
ふふふ、と笑う翔
見透かされてた千里、照れ笑い
気になる?
え?
お酒の匂い
平気だよ。何でそんなこと聞く―――わ!
ドアの前で振り返った翔が、左手で千里を胸に引き寄せる
・・・
当然、千里、固まっている
翔が千里の名前を呼ぶ
押し付けられた右耳からは、体の中を振動させて伝わってくる翔の声、空いている左耳からは、いつもと同じ翔の声。ふたつの声が千里の中で不思議に混ざり合っている
俺ね、自分のためになんかするの、はじめてかもしれない
身を硬くしていた千里、その言葉を聞いて翔を見上げる。
翔…
ん?
翔が見下ろす
呼びかけてみたものの、言葉が続かない千里。大きな目で翔を見上げている。
そんな顔すんなよ。
千里の視線を避けるように、千里の頭を自分の胸に押し付けて、
深刻になるような話じゃないんだからさ
きゅ、と一回腕に力を込めてから千里を離すと、翔は千里の頭に手を置いて、
おやすみ
といつものように挨拶をする
千里はいつものように、とは行かないみたいで、「おやすみ」が小さな呟きになってしまう
翔、そんな千里の頭を、2度、3度と撫でて
酔ってるからじゃ、ないからな
と千里の顔を優しく見つめて、手を離す
千里は固まったまま
翔、少し照れたように笑うと、「じゃあな」と片手を上げて千里に挨拶
千里がぎこちないながらも、こくんと頷いたのを確認すると、翔はゆっくり部屋を出て行った。


視線で翔を見送った千里
ちょっとすぐには動けない
一番最初に復活したのは血流
遅ればせながら、1人残された部屋で、真っ赤になっている
ゆっくり部屋の中まで戻り、ポス、とベッドに倒れ込む

確実にあたしだけ眠れなくなっちゃってるに違いない
千里、大きく一つため息をつく

今度はあたしもお酒飲みながら翔の帰りをまとうかな?
でも酔っ払ったところで、翔をびっくりさせられるようなことが、はたしてあたしにできるんだろうか

そこまで考えて、千里、気付く
そもそも、明日から翔はミラクルに出勤するんだから、夜更かしして待たなくてもいいんだ


翔が誰よりも早く、自分に話をしてくれたという喜びは、ほんのり明るい灯を千里の中に点してくれた


でも、今夜みたいに、夜中、二人で話す時間が好きだった千里、ほんの少しだけ、残念だったりして