フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
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『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
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アタシんちの男子の針を進めたら…

ま、このシリーズ、操行不能ってことです(笑)
大目に見て下さいね



■写真の少年



なんだか、私と、新造氏とあなたとは不思議な縁があるんです


初めて体験したケースが、あなたのお母様と新造氏の会見であったということも、今にして思えば不思議です
新造氏が、自分の前に差し出された男の子の写真を、瞬きするのも忘れて見つめていたことを、よく憶えています
きれいな笑顔の、利発そうな少年でした。
その時は、こうして、私があなたの運転する車に乗せていただくことがあるとは、思ってもみませんでしたね
風の横顔を見つめる響子
俺、かわいかったでしょ
そうですねー。いたずらっ子がすましている感じでしたよ
あ、ばれてた?
風、肩をすくめる


それから5年後、私が、事務所から独立してまもなくのころです。
新造氏から、私の事務所に、「個人的に頼みたい仕事があるので、引き受けてもらえないだろうか」と連絡がありました
独立のご祝儀代わりに、小さな仕事を下さるのかと思いました
新造氏の元を訪れると、「息子を引き取ることになった。」と、あなたの戸籍謄本を渡されました
あの時の、少年の写真がすぐに頭に浮かびました
あなたのお母様から、「交際相手が子供嫌いを理由に、わたしとの結婚をためらっているから、あなたに風を引き取って欲しい」と、新造氏に話がありったそうです。
今、聞いても、ずいぶんな申し出だよな。
風、口の端だけで小さく笑みを作る
申し訳ありません。私も、当時、同じことを新造氏に申し上げました
響子もその表情に答えるように片眉上げて苦笑い
あなたを引き取りることを契機に、株式会社ミラクルのことは、私が以前所属していた弁護士事務所が担当し、新造氏個人の家庭内のことについては、私が担当するというふうに、会社と家庭を分けて考えていきたいとのことでした

子育て経験ゼロの私が、急に年頃の子どもの父親になるなんて、ハードル高いと思わないかい?

と、新造氏は大げさに眉をしかめておっしゃいましたが、とても喜んでいらっしゃることがわかりました
あなたを引き取ることに決めた当初、自分に15歳になる子ともがいたということについて、場合によっては、記者会見を開いてもいいと、新造氏は考えていました
しかし、新造氏が社長就任以前からの、古参の重役たちが、あなたのを引き取ると知った途端、「水商売の女の子供」「隠し子」という、些細なことに騒ぎ始めました。
まるで週刊誌の見出しだな。まあ、事実だけどさ
風、呆れ顔
ほんとに。
響子、その当時の不快感を思い出したのか、「読書傾向がわかる物言いですよね」という厳しい一言とともに眉根を寄せる
そのことを知った、新造氏は、あなたのお母様が危惧していたことの一端を見た思いがしたそうです
「あの子を世間の目にさらしたくない。大蔵家には養子として引き取って欲しい」と希望されていた意味が理解できたとおっしゃっていました。

多分、風の母親も、父親を世間に明かさずに、子供を育ててきた中で、世間の風当たりに、相当、苦労したんではないだろうか

新造氏は、あなたのお母様の希望を受け入れることにしました


実のご子息との養子縁組という、いささか風変わりなことをなさる社長に、当然のごとく、会社側は、またも激しく反発しました
お父様の急逝により、若くして後継社長に就任された新造氏を、経験もなく判断も甘い若輩者と見る重役が殆どでした。
新造氏は、重役の意見を尊重し、拝聴しつつ、経験を重ねていかれました
社長が旧来のおもちゃ事業に新機軸を打ち出し、業界内でも注目される事業展開をされても、言葉は悪いですが、年寄りにとって、子供はいつまでも子供のまま
あれこれと些細なことに、こだわり、口出しする有様でした
岩本副社長みたいに?
岩本福社長なんか、かわいいほうです
げー、あれで、かわいいんだ
その、重役連中を黙らせるために、新造氏は

私が引き取る子には、後継者候補として、しかるべき教育を施す

と宣言しました
1つは、会社側に、あなたを引き取る理由を明確に示すことにより、よけいな横槍を防ぐために
もうひとつの理由は、会社を継ぐ可能性のあるあなたに、自分がしたような苦労をさせないために
あなたへの教育が、行きすぎてしまったのしは、そんな理由もあったんですね
新造氏のご決心を知り、私は、大蔵新造氏の顧問弁護士を引き受けることにしました
その時の決心を思い出すかのように、きっぱりと言い切る響子を見て、
それは、そのまま響子さんにも起きてたんじゃないの?

親父個人の顧問弁護士を引き受けるってことがさ、自分の古巣の仕事を、一部掠め取ったように見られてたとしたら、あなたも相当いやなこと言われたんじゃないのかなあって、思ってさ
響子、風の顔を驚いたように見つめる
「でしょ?」と風がにやりと笑って響子を見る
響子、うつむいて「まあ、多少は…」と小さく呟く
やっぱりな。…まあ、どこにでもバカはいるもんだよ
新造氏も気づかれなかったことを、あなたに言われるとは思いませんでした
響子、恥ずかしそうに風を見る
ま、俺は親父よりもより、深ーく響子さんを愛してるって、証拠だね
響子の様子を見て、風、大げさに抑揚をつけて響子をからかう
響子、冗談とわかっていても、言葉に詰まってしまい、赤くなりながら風の肩を叩いて反撃
危ないって
風、運転しながらでも余裕で響子の手を捕らえて封じ込める


でも、いまの話、初めて聞いたよ。俺を引き取るときに、親父と重役達の間に、そんなことがあったなんて
風の言葉に、大人しくなる響子
「急にこんな話をして申しわけありません」と響子が詫びる
きっと今日はそういう日なんだよ。たまには思い出せよって、親父が言ってんじゃないかな
風、「ふー」と長いため息をつく
しかし、俺が親父の立場だったら、「彼氏が子供嫌いを理由に、わたしとの結婚をためらっているから、子供をを引き取って」なんて言い分、聞いてらんないけどね
風は上手に隠しているけれど、響子はその表情の中に、心の傷が、まだ残っていることを感じる
ま、そういう奴なんだから、いいけどねー
先刻承知と微笑んで、髪をかき上げる風
響子、風の顔を見つめる
何?
響子の視線に気づいた風
あなたのお母様は、「そういう方」だったようですね
そういう方って?
私も、今、あなたがおっしゃったように新造氏に言ったことがあったんです
「先方の、母親の言い分は、ずいぶん自分勝手と思われます」と
その時、新造氏が、あなたのお母様のことを、話してくださったんです

ミラクル社長室。


応接で、響子の整えた、風の養子縁組とそれに関わる諸届けに目を通している新造
差し出がましいことを言って申し訳ありませんが、
んー?
自分の都合で子供を手放すなんて、ずいぶん自分勝手な申し出だとは、思われないのですか?
心配そうに眉根を寄せた響子が、新造の判断をもう一度確認するように問う
彼女にはね、そういうところがあったんだよ
新造、手元の書類から目を上げて、響子を見ると、にっこりと笑う
彼女は、事情があって、人と別れなければならないときは、思いっきり悪い女性を演じて、自分に罵詈雑言を浴びせられるように仕向けるんだ
意味をつかみかね、響子の眉間の皺が深くなるのを見て、新造、「わかりにくい?」と首をかしげる
そうですね、少々…
響子も首を傾げて見せる
そう?
新造、自分の膝で頬杖ついて、ちょっと遠い目をして昔話を始める


このこの母親はね、すごく魅力的な人だった
客相手の仕事をしているせいもあり、大勢の男が彼女に夢中だったよ
でも、身を持ち崩しそうなほど自分に熱を上げる男が出てくると、彼女は決まって男にだらしのない性悪女の振りをする
私と別れた時もそうだった


25、6歳の頃、私はミラクルの次期後継者として、父親とともに、いろいろな取引先からの接待へ付き合わされるようになった
ずーっと設計図面引いていた私にとって、苦痛以外のなにものでもなかったなあ
招かれるのは、大概、一流のクラブだ。
そこでホステスをしていた彼女に会ったんだ
何度かその店を利用するうちに、年も同じだったこともあって、たちまち親しくなった
女優みたいに雰囲気のある美人なのに、気さくで、度胸が良くて、口が悪くて。
接待するのも、されるのも、不慣れだった私は、ずいぶんと彼女の気配りに助けられた。
私は、普通の若い男よりも、女性にも、恋愛にも免疫がなかったから、あっという間に彼女に夢中になってしまった
彼女を独り占めする方法を真剣に考えたりもしたよ
新造、恥ずかしそうにこめかみをかく
社長がですか?
そう、製図板の上の彼女の顔が浮かんだ時には、われながらびっくりした。ぼーっとしちゃって、同僚にからかわれたりね
楽しそうに当時の自分を思い出しているような心臓の表情
そんな新造を見た響子、新造の手前、大げさに驚くわけにも行かないので、目だけ、パチパチと瞬いて聞いている。
そんな響子の表情を、楽しそうに見る新造。
今度は大げさに、意気消沈したみたいにため息をつく
ところが、ある日を境に、急に彼女の態度が豹変したんだ
若い私は、彼女の心変わりが理解できず、水商売の女なんて、そんなものかと傷ついて、自分から彼女に距離を置くようになった


彼女と別れて数年たった頃、社長になった私は、得意先の重役に、高級クラブに招かれた
驚いたことに、そこには、ますます美しくなった彼女がいた
彼女はやっぱり、気さくで、度胸が良くて、口が悪くかった。
懐かしいなと思ったよ
私を招待した重役は、彼女に熱を上げているようだった。
その席で、彼女にあしらわれている彼を見て、わたしは気がづいた
彼女が、わざと悪い女を演じて、私が自分で彼女から離れるように仕向けたんだと
帰り際、あのときはしてやられたな、と彼女に言うと
あなたには、宝物をもらえたから、感謝してるのよ
と、すごく綺麗に笑ったんだ


そのときは、二人の恋の思い出のことでも言ってるのかと思ったが、後でその宝物の正体を知って、私は腰を抜かすほど驚くことになるんだ
それは、比喩なんかじゃなく、まさしく私にとっても宝物だった


新造、テーブルの上の書類をそっと撫でる
響子も新造の手元を見つめる
書類と一緒に、一枚の写真がある
学生服の男の子のスナップ。
笑顔で友達と並んでいるが、静かに微笑む様は年齢より大人びて見える


新造、頬杖を腕組みに切り替える


彼女が素直に話すはずがないから、今回の話も表向きは鵜呑みにしているけれど、
彼女が男の機嫌を取るために、風を手放すはずがない。
今まで、散々、風と一緒に暮らしたいという、私の申し出を断ってきたんだ
ひょっとすると、子供嫌いな交際相手はいないのかもしれないと私は思っているんだ
風は、来年の春には高校に進学する年齢だ
自分の仕事を恥じるような女じゃないけど、子供のことになると話は別で、これから大人になり、社会に出て行く風に、確かな後ろ盾を持たせたかったんじゃないだろうか


「彼女の期待にこたえられるか…」と、新造、自身なさそうに笑う
肩書きばっかりで、立派な親になれるかどうか、われながら心配だよ


新造の言葉に、あらためて男の子の写真を見つめる響子