フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
「はじめに」「まとめ」のカテゴリーからどうぞ
『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
「目次」のカテゴリーからどうぞ

アナザーワールド7.5 明日には消えちゃう与太話

妄想ですのでごめんなさい。




月に願いを

「明日、明のお母さんが見てくれますよーに」
あたしは月に向かって指を組んで小さい子どもがするようにお祈り。
ふと、視線を感じ振り返ると、翔がそんなあたしを見て笑い出した。
恥ずかしいな。てれをごまかし微笑み返した。

ちょっと、どきどきする。


     *

さっき、『ミラクル』に行って時田さんに頼み込んで飛行船の手配をつけてきた。
明のためにできるだけのことをしてあげたくて、飛び出したまでは良かったが、思いのほか時間がかかり、夜になってしまった。
城の門の前までは会社の車に送ってもらったんだけど、城の敷地は広く淋しく、ちょっと駆け足になった。
ホームレス生活の時は必死で、暗闇も孤独も怖いなんて思ったことはなかったのに。
望んで始めた同居=母親役ではなかったのだが、うるさい兄弟たちにぶつかっていくうちに、母親が亡くなって以来、ずっと忘れていた誰かと一緒に暮らす=家族という感覚がよみがえってきたみたいだ。
ほっとけなくなってついついお節介をしてしまうんだけど、お節介って、他人のためにすることじゃない。自分に関係のある大事な人のことだからお節介になるんだ。
あたしは大蔵家に愛着を感じ始めている。
こんなに短い時間で、1人でいられなくなってしまったかもしれない自分に驚いた。
困ったな。
三ヶ月が過ぎたら、出て行かなくちゃならないのに。
一億円チャラになったら、いる理由もなくなってしまうのに。

街灯のともるトリックハート城の外階段を半分ほど登りかけたとき、階段の上に白いライダースジャケットの背中が見えた。背の高い翔が立っていた。立ち止まって見上げると、振り返り「こんな遅くまでどこに行ってたの?」と両手をポケットに入れたままこちらを見下ろして言った。
表情は逆光で見えにくかったけど、翔の声の優しい響きに、なんだかすごくほっとした自分に驚いた。
たった二ヶ月で、あたしは本当に弱くなってしまったのかもしれない。

庭のベンチに並んで座り、屋敷を飛び出した顛末を話す
ローカルテレビ局の放送を明のお母さんに見てもらうために、メッセージをつけたミラクルの飛行船を飛ばすことを思いついた。そこでまず、ミラクル本社にいた時田を捕まえて、何とか使用許可を貰い、パイロットと燃料の手配をつけてもらった。その足で今度は、宣伝部に行き、メッセージ用の横断幕を発注。明日の朝までには取り行けてもらえることになった。
翔は、時々小さく頷いて、あたしの話の先を促しながらほとんど言葉を挟まずに聞いていた。「で、気がついたら、こんな時間になっちゃったの」と話の区切りがついたところで、翔は「ふうん」と大きく頷いた。組んだ足のひざに両手を乗せ、あたしの顔を見ると「明のためにね…。ほんとよくやるよ。」といった。
「あたしのできることは全部やっておきたくて」
「なんでそこまでするの」
「ん?」
「いや、別に血がつながってるわけでもないし、三ヶ月の契約が過ぎればただの他人でしょ?」
驚いたことに、翔の言葉は、さっきあたしが帰り道で考えていたことと同じだった。その驚きは、なんだかあたしを幸せにしてくれた。多分、顔に出てしまったんじゃないかな。
あたしは、家族について思っていることを翔に話してみることにした。
まじめに話すのは恥ずかしい気がしたけど、ベンチに並んで据わっていれば、顔を見られることもないし、夜で表情もあまりわからないだろうし、何より、翔があたしのことを見ていてくれている気がしたから
「アタシも新造さんに同じ質問したことあるんだよね〜。」
翔があたしのほうを見た。
「風に渡した発明品あったでしょ。」
「ああ、あの未完成品?」
「うん。」
あたしはミラクルスポットライトを見せてくれたときの新造さんのことを翔に話した。
新造さんがベッドにいるときは、手元にはいくつも発明品があって、あたしはいつもそばにいて発明品の話を聞いていたの。新造さんはミラクルスポットライトをひざに乗せ、いつものように楽しそうに説明をしてくれたんだけど、でもこのときは珍しく、「・・・でも、完成は、無理かな」って言ったの。
あたしは、そのときは本当に新造さんが亡くなるなんて思っていなかったから、「なに言ってんの。早く体治して、完成させようよ。」っていつもみたいに励ましたら、「こいつを使って、子供たちが持ってる輝きを、少しでも引き出してやれたら最高なんだけどな。」って。そのときの子供って言うのが、翔たち兄弟のことを言っているんだってわかったから、あたしは以前から不思議に思っていたことを聞いてみたの。今の翔みたいに。「あのさあ、前から聞きたかったんだけど、どうしてそこまで、血のつながらない息子たちのことを」って。
そしたら、新造さんはあたしを見て「それが、わたしの幸せだからだよ」って、言ったの

「あの時は、新造さんの言葉がぜんっぜんピンとこなかった。・・・あたし、お母さんいなくなってからずっとひとりだったから。」
お母さんのことを話すときはあたしは、いつも同情されたくないので勤めて明るく話すことにしている。それでも、表情がわからないようにベンチを立ち話を続けた。
「でも大蔵家に来て、智がマジックできるようになったり優の女性恐怖症が治っていったりするの見てるうちに私も、一緒に嬉しくなって、幸せな気持ちになれた。」
傍らの翔は、何も言わない。話ながら、ときどき翔のほうをうかがうと、瞬きや表情で続きを促してくれる。なんだかすごくおだやかな気持ちが満ちてくる。
あたしは翔を振り返り、翔に向かって自分の思いをなげかけた
「そうやって誰かと一緒に笑ったり泣いたりできるのって、血のつながりとか関係ないんじゃないかな」
翔は笑ったりはしなかった。真剣な表情で受け止めてくれた。
その翔の顔を見て、明るく照らす月明かりにあたしははじめて気がついた。
ふと見上げると頭上には大きな満月。

「明日、明のお母さんが見てくれますよーに」
あたしは月に向かって指を組んで小さい子どもがするようにお祈り。
ふと、視線を感じ振り返ると、翔がそんなあたしを見て笑い出した。
恥ずかしいな。てれをごまかし微笑み返した。

ちょっと、どきどきする。

月の角度が変わるほど、一方的に喋ってたんだろうか。
月の角度が変わるまで、翔はあたしの話を聞いていてくれた。

翔は優しい
何かをがんがん投げ与え続けるあたしのようなおせっかいの優しさではなく、何があっても見守ってくれているような暖かさがある。

どきどきする。

翔は、何で待ってくれていたんだろう。
城の外で。ひとりで。いつから。

「っくしっ」
「やだ、かぜ?」
「いや、ちょっと冷えたのかも。」
翔のジャケットの袖をさする。冷たい革の感覚
「いつから待っててくれたの?」
「いや、千里が車から降りてきたのが見えたから、迎えに出ただけだよ。」
「そうなんだ。」待っててくれたわけではなかったのか。「ちょっとがっかり」
「話、聞いてみたかったし。」
「え?」
「あいつらがいるところでまじめな話できないだろ?すぐに大騒ぎだもんな」
「いえてる。」

ベンチに座っている翔のそばまで戻り、あたしがかけていたストールをぐるぐると翔の首に巻きつける
「風邪引かないように」
「いいのに」
「長話し聞かせちゃったから、責任感じる」
翔は、襟に巻かれたストールを少し引っ張って、襟元に余裕を作る。
「ごめん、しめすぎた?」
「ああ、でもあったかいよ。ありがとう」
「・・・帰るか。明日は本番だ」
風邪引いてる場合じゃないよな。
長い足を振り子のようにブーンと振って、翔が立ち上がり、あたしの背中を「とん」と叩いた
「うん」

玄関を開けると、特攻服の猛が詰め寄ってきた
「なんだよ、一時間もどこ行ってたんだよ。お前「●●」のDVDもって行ったままだろ、返せよ。返却期限今日までなんだよ。延滞料金、とられちまうじゃねえか」
「わるい」
「ぉ、ちびっこ、帰ってたのか。首尾はどうだ」
「あ、ばっちり」
「そか  おい、はやくだせよ」

翔は猛に引きずられていってしまった。

一時間、前、から?
あんなところに?
いつかえってくるかもわからないのに?
人のことをおせっかいとか言ってるくせに?

「ほんとよくやるよ。」
「なんでそこまでするの」
「別に血がつながってるわけでもないし、三ヶ月の契約が過ぎればただの他人でしょ?」

さっきの翔の言葉が頭に響く
その言葉、そっくり翔に返したい。アタシも翔に同じ質問してみたい。
あたしは思わず顔がほころんでしまう。

家族に守られているという実感
胸の中にあたたかい火がともったみたいだ。

傍らに合った玄関の大きな姿見を見ると、内側から照らされるように微笑む穏やかな表情の女の子がいた。

あたしの顔、こんなだったっけ?

困った。こんなことではますます、1人ではいられなくなってしまうよ