フジテレビ火曜9時ドラマ『アタシんちの男子』を楽しみましょう!!
ドラマは感動のうちに幕を閉じましたが、まだまだ『アタ男』熱は冷めません。
終了したドラマなのでネタバレ含みます。ご承知おきください
『アタシんちの男子』をこれから見る方、ストーリー、次回予告、登場人物をお探しの方は、
「はじめに」「まとめ」のカテゴリーからどうぞ
『続きシリーズ』『その後シリーズ』など、お話を読まれる方は、
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アタシんちの男子のその後を考えよう・番外編

風の誕生日と月齢十日のセルフパロディです(笑)
ベタでお気楽な話ですが、大目に見てください

※読みきりです




月齢19日
8時ごろから山入端(やまのは)に顔を出した月はまだ昇りかけ
満月から四日が過ぎて、月の右側が欠けてきている
昼間は曇っていたけど、天気予報どおり晴れてきた


晴れた夜のバルコニーは気持ちいーねー
9月の夜は少し涼しくなってきたから、パーカー羽織って
今日も月を見上げている千里


夜更かしの翔は絶対起きているはずだから


月がきれいだよ


千里、メールの送信ボタンを押す




ベッドにうつ伏せになって、読書灯で資料を読んでいる翔
眠る体制に入っているのでTシャツにスウェット
9月に入って、翔は、秘書室付きから、トイマーケティング部に研修に行くことになった
毎年夏に開催される日本最大のおもちゃ博覧会『東京おもちゃショー2010』を担当する部門。
バイヤーズデー(商談見本市)とパブリックデー(一般公開・子供、学生可)を持つこのイベント。メーカーの準備は1年がかりで行われる
もちろん最初は当然使い走りに決まってるけど、4日間で15万人超の入場者数を誇る一大イベントなだけに、翔も興味津々。
時田に予習用に渡された資料を熱心に眺めている


鈴を鳴らしたみたたいな短いジングル
同じ家の中にいるから、めったに鳴ることがない千里のメール着信音
サイドテーブルの携帯電話に手を伸ばす
千里らしいあっさりとした文面
バルコニーにいるんだな
時刻を確認すると11時55分
夜更かしの千里が起きていても不思議はない時間だけど
翔、心配そうにちょっとだけ眉根を寄せる
母親じゃなくなってからも、俺たちの朝食の仕度をしてくれる千里は、早起きしなきゃならないのに
田辺家で畑仕事だって、まだまだ残暑が厳しいから、ちゃんと睡眠とったほうがいいのに


保護スイッチONになってしまった翔、メールの返信はせずに、パーカー引っ掛けて、千里回収に出動




バルコニーに千里の姿を見つけた翔、ここで返信


着信に気づいた千里、携帯を開く


月がきれいですね


メールを見た千里
翔、来ないのかな?
と首をかしげる


不思議そうに城を振り返ると、翔が右手をあげた


やっぱり起きてた
千里、うれしそうに笑う
パーカーのポケットに手を入れた翔が、バルコニーの手すりのところにいる千里のそばまでゆっくりと歩いてくる
起こされたんだよー
と、わざとあくびをしながら
そうだったの?ごめん
千里、心配そうに翔を見上げる
翔、千里の頭を後ろ側からくしゃりと撫でて
嘘だよ
とそっぽを向く
えー!?
千里、乱された髪を直しながら上目遣いで翔を睨む
翔、そんな千里に、ちょっと咎めるような視線を送り
夜更かし娘を回収に来たんだよ。
回収?
明日も義雄さんちに行くんだろ?
うん
義男さんちに通い出して、ひと月だろ?いくら千里がタフだからって、そろそろ夏の疲れ出るかもしれないし、本気で畑に取り組むんなら、体調管理も大事でしょ?
翔の保護者口調に、千里、反論できないものの
…なんか、オヤジっぽい
と、不満げにぽそりと呟く
うるさいよ
オヤジと言われ、翔、苦虫噛み潰す
翔の表情に、千里、遅まきながら「ごめん。心配してくれたのに」と口元を押さえる
まー、俺は子持ちですから。オヤジと言われてもかまわねーけどー
翔、ちょっとぐれ気味
「お子さまは、早く寝ないとなー」と、千里の背中を押して城に向かって歩き始める
あ、ちょっと、待って、月、見た?
せっかく来たんだからと夜空を指差す千里
ああ
翔、思い出したように、千里の指差す方角を見上げる
満月から四日目の月。
ちょっと欠けてきたけど、きれいな月明かり


ここで千里と月を見た8月末のあの晩から、満月を挟んでもうすぐ十日
あの時の月と、反対側が欠けてきているな
翔、独り言のようにつぶやいて、千里を見る
あの時って?
なんでもないよ
首を傾げる千里のしぐさもあの時と同じだな、と、翔、思い出し笑い
自分だけしか気づいてなくても、なんだか楽しくなってきた翔。
千里の背中を押していた手を、自分の体のほうに折り曲げて、千里を胸に抱え込む

急な方向転換に躓きそうになる千里
急になんなの〜
胸で押しつぶされている千里が苦情
なんでもなくても、いいだろー?
翔、うれしそうにぎゅーっと千里を抱きつぶす
今度、バルコニーに月見に呼び出すときは、『月がきれいですね』って、メールくれない?
いいけど…。さっき、翔がくれたメールだよね

なんか意味があるの?
夏目漱石に聞いてみな
わが輩は猫である、書いた人?

またなんか、雑学?
まあ、いいじゃねーか
ふーん
首を傾げる千里の頭に、頬ずりする翔、何だか楽しそう


♪〜


翔の腕の中から、かわいいメロディが聞こえる
バースデーソングのオルゴールバージョン
びっくりして千里を離すと、千里が恥ずかしそうに笑う
翔、びっくり目
翔の反応に満足そうな千里
えへへー
と笑ってパーカーのポケットから小さな包みを出す
お誕生日、おめでとう
「箱がつぶれちゃったのは、翔のせいだよ」と、千里が翔に手渡したのは、翔の手のひらにちょうど載るくらいの小箱。風合いのある黒い包装紙に金色の細いリボンがかかっている
…この展開は予想してなかった
翔、手の中の箱を照れくさそうに見つめている
自分の誕生日、憶えてないの?
今日は一日前じゃん
日付が変わったら鳴るように、アラームかけたの
千里、ポケットの中から携帯電話を出してみせると
「サプライズ、大成功ー」
と楽しそうに笑う
さんきゅ
翔、箱をかざして千里にお礼を言う
あけていい?
うん。
翔、がさがさと包みを開ける
外したリボンと包装紙を順番に千里が預かる
中からはレザー調のケース
蓋を開けると、翔が好きなサーフブランドのシルバーネックレス。小さなウイングモチーフのチャーム
秋物だね
手にとって眺めている翔
うん、高いのは買えなかったけど
目の前で贈り物を広げられるのが、なんだか恥ずかしそうな千里
翔、チェーンを手にもち、揺らしていると、月や外灯の明かりを受けて、きらきら光る
うれしそうに笑う翔を見ている千里
ケースと包装紙をパーカーのポケットに突っ込んで
ありがとう
と千里の頭を撫でる


翔、千里回収に来たことを思い出し、城の方に千里の背中を押して歩き出す
このために起きてたの?
うん
夜更かしさせちゃったな
平気だよ、このくらい
お礼に明日、ご飯行こーか
だめだよ。明日はみんなでお祝いしなくちゃ
え〜。ヤローに祝われてもうれしくねーよ
風の誕生日は、みんなでお祝い、できなかったからね。ホールでケーキを買うんだー。
語尾にハートマークでも付いてそうな千里の口調に
俺のお祝いしてくれるんじゃないの?
翔、千里の顔を覗きこむ
そうだよ
千里、にこにこ
ケーキ目当てみたいなんだけど
そ、そんなことないよー
甘いものに頭を支配されていた千里、笑ってごまかす
誕生日デート却下された翔、ちょっと思いついて代案を出す
じゃあさ、そのかわり、俺の好きなケーキ、買ってくれる?
いいけど、翔、甘党だっけ?
千里、不思議そうに首を傾げる
「いいからいいから、細かいことは気にすんな」と手を振る
明日、俺の好きなケーキを売っているお店に連れてくから、夕方、会社まで迎えに来てよ
まー、主役の言うことだから聞くけどー?
そしたら、ちょっと、おしゃれして来て
なんで?
デートの気分だけでも味わわせてよ
えー
主役の言うことなんだからさ
…そんな急に言われても、おしゃれな服、支度出来てないし
うそ。普通でいいよ
…うん
しぶしぶ頷く千里
よーし、そうときまれば、今夜は引き上げ!
明日のデートごっこが決まった翔、上機嫌で千里を部屋まで送り届ける




リビング
今日、千里さん、遅いね
心配そうな優
翔の誕生日ケーキ、買ってくるって言ってた
明がパソコンから目を上げる
料理は井上さんだって
ふーん
優、つまらなそうに返事をする
智も退屈そうに頬杖ついてアヒル口
兄弟で誕生祝なんかしたことねーよな
する意味がわかんねー
やることない猛がうろうろとリビングを歩き回っている
智の携帯にメール着信
あ、国土

千里さんが、うちのネカフェに着替えに寄ったけど、すごくかわいかったから送ります
今日は何かイベントでもあるんですか?

怪訝そうな表情の智、写真を開く
あ!
親衛隊と話している千里の写真
国土が目に留めたはずだ。
智も見たことがある膝丈ワンピ。
いつもは重ね着するところだけど、今日は一枚であっさりと着こなしている。
非常にレアなワンピース姿の千里。ノースリーブの肩に、きれいな色のストールをふわりとかけている。
シンプルだけど、確かにいつもの元気いっぱいなスタイルと違って、かわいいというより、ちょっとキレイ
頬染めて、ディスプレイを見つめてる智の携帯を取り上げた猛
お!馬子にも衣装
あれ、猛のことわざの使い方が合ってるってことは、相当びっくりしてるんじゃない?
明が猛の腕を引っ張って携帯を覗き込む
ふーん
リアクションは薄いが、明、目をそらさない。…ってことは気に入ってる?
なになにー!
一番最後に携帯を見ることが出来た優。ディスプレイを凝視
大きく目を見開き、口をあけて固まってる
優の様子に注目する猛、智、明
あ゛〜〜〜〜〜!!
遅ればせながら声が出る優
なんなんだよ!!!
優の突然の大声に、猛、智、明、耳を押さえる
僕がしたコーディネート
は?
今朝、千里さんが手持ちの服でお出かけするとしたら、どうしたらいい?って聞かれたから、千里さんの持ってるワンピ選んで、僕のストール、貸してあげたの。
「今日着るなんて、思わなかった…」と、ため息つく優
てーか、今日は、翔の誕生会するって言ってた、言い出しっぺが、どこへお出かけしちまったんだよ
猛、投げやりにいすに座る


ただいまー


風が帰宅
なあ、おい、聞いてくれよ。ちびっ子がな
猛、風を指さし、今までの顛末を話し始めると
あれ、翔さんは?
と明が風一人なことに気づく
千里とケーキ買いに行くって。なんかリクエストがあるらしいぞ
風、千里さんに会った?
優が胸の前で両の拳を握りしめて風に詰め寄る
いや…
優の剣幕に、風引き気味
智が不機嫌な顔で風に携帯を見せる
風、怪訝な表情で携帯をのぞきこむ
なに〜、これ、いつの写真?千里、かわいいじゃん
風、兄バカ全開の笑顔
今日だよ
明、冷静にツッコミ
え?
そのなりで、ちびっ子は翔と出かけたってこったな
猛、下唇出して、変な顔


風、顔面蒼白




翔を待ちながら、街並みを眺めている千里
あ、あれ調べようかな
退屈なので、昨日、翔が言ってた言葉を携帯で検索

夏目漱石 月がきれいですね



その検索結果に固まる千里




千里の後ろ姿に、すでに見とれちゃってる翔
感動的なのは、いつもワークブーツを愛用している千里の足元の華奢なサンダル
自分のために、普段しない装いをしてくれていることが、何よりの誕生日プレゼントのような気がする翔
翔、お店の場所を忘れちゃったふりして、千里との短いデートを楽しもうかなと、作戦を立てる


携帯を眺めている千里の背中にそっと近づいて、
待たせてごめんね
と抱きしめる


『月がきれいですね』の意味を知った千里、動悸が収まりそうにない


千里と翔は、これから二時間後に帰るはずのお城の、シャレにならない空気をまだ知らない




9月10日
波乱含みの翔の誕生日


糾弾の手ぐすね引いてる兄弟は、表面上、翔を迎え撃つ表情を作りながら、自分の誕生日にどんな抜け駆けしてやろうかと、密かに虎視眈々だったりして